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『わたしを離さないで』は無自覚に卑屈だよ。

私を離さないで

 今回はショッキングな設定も話題になっている、カズオ・イシグロ原作のSF映画『わたしを離さないで』の感想です。スーパーどうでもいいことですが、ようやく「ワ行」の映画が埋まりました。

 観に行った映画館はTOHOシネマズシャンテ。ファーストデイだったのですが思ったほど混み合ってませんでした。客層は例によって高齢の方も多かったですが、若い人も多かったです。人気の若手俳優が出ていますしね。女性多め。


概要:原作はカズオ・イシグロの同名小説。監督は『ストーカー』(ロビン・ウィリアムス主演の)のマーク・ロマネク。脚本は『28日後…』や『サンシャイン2057』のアレックス・ガーランド。音楽はレイチェル・ポートマン。
 緑豊かな自然に囲まれた寄宿学校“ヘールシャム”。そこは、牧歌的な田園地帯にありながら外界からは完全に隔絶され、徹底した管理が行われている謎めいた施設だった。そんな静かで整然とした環境の中で、幼い頃からずっと一緒に育ってきたキャシー(キャリー・マリガン)、ルース(キーラ・ナイトレイ)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)の仲良し3人組。やがて18歳となった3人はヘールシャムを卒業し、農場のコテージで共同生活を送ることに。初めて接する外の世界に不安や喜びを感じていく3人。そして、いつしかルースとトミーが恋人になったことで3人の関係も終わりを迎えようとしていたが…。
"allcinema online"より抜粋)


 人はどうして将来死ぬことを受け入れていられるのか。なぜ気が狂わないでいられるのか。子供のころ抱いていた疑問や死に対するどうしようもない恐怖はいつの間にやら考えないようになってしまっている。
 そんなことを思い出したのは今度の震災で「命」というものを、『名前のない少年、脚のない少女』の主人公ばりに、思春期以来初めて深く考える機会を得たからだ。
 多分、様々な我々を取り巻く環境(文化、宗教、芸術、経済などなど)が「死の運命」を我々から忘れさせてくれているのであろうということを、『わたしを離さないで』を見て感じた。

 本作に登場するクローン人間たちもいつか臓器提供のためにその命を短くして失ってしまうことを知りながら、根本的なところから全てを投げ捨てて逃げ出そうとしない。もちろん死には怯えるし、死を遠ざけようとはするが、反面その運命を受け入れているようである。なぜその行為にいくら危険があろうと逃げ出してしまわないのか。「死」をよく分かっていなかった幼少時はまだしも成長してからはそのような考えだって出来ただろうに。


 本作は"魂の重み"を描く作品である。主人公たちはクローン人間だって魂はあって人間同様それは重いということを一生懸命証明しようとする。
 しかしながら、作中の儚げな淡い色彩や、壊れたおもちゃの数々、ヤカンの上に止まる小さなヒバリ、薄汚れたステンドグラス、今にも倒壊しそうなコテージ、そしてやせ細って色白で漂白されたような俳優たちなど、まるで彼らの魂の重みなど薄っぺらだとでも言わんばかりに儚げである。

 そのことに気づいてか気づかないでか、クローン人間たちは精一杯愛し合い、求められようとする。人間同様にクローン人間たちも愛し合い求め合うことでその魂の存在を確かめられる。親友を裏切ってでも、必死になって恋をするのも人間と同様だ。

 もちろんクローン人間たちは見た目も人間同様だし、人間同様に苦しみ、笑い、泣きじゃくる。

 これはその魂の意味を希薄にされたクローン人間たちの物語だが、最後に主役は言う「我々(クローン)と人間に何の違いがあるのか」。軽く思われていたクローン人間の魂が本人の中ではもちろん重かったのと同様に、人の魂も重いし軽い。"魂の軽さ"は例えば『告白』でも描かれていたし、魂を肯定されない孤独の寂しさは人間だけでなく例えバケモノでもあてはまるということは『スプライス』でも描かれていた。

 だから人間もクローン人間も、自分の魂を一生懸命肯定するために他者の魂の否定もしてしまうし、また魂を認めあうこともできる。
 例えばこの世界の人間はクローン人間の命をないがしろにして臓器を拝借し自らの魂を肯定する。
 また例えばキーラ・ナイトレイ扮するルースは、親友キャシーを裏切りトミーを奪い彼女を傷つけることで自分の魂を確認し、トミーに身体を求められることで再度また確認する。

 このように"愛"は魂を肯定するが、それ故に愛を証明すれば提供の猶予がもらえるなんて嘘臭い噂を彼らは信じこんでしまったのではないだろうか。「愛」と「命」が直結していた彼らにとってその噂はリアリティがあったのだ。
 しかし、猶予のためその愛が本当かどうかを確かめるという理由で行なわれていると思われていた「ギャラリー(彼らが描いた絵を収集する活動)」は、ただ彼らに魂があるかどうかの確認であった。
 彼らの生活レベルの向上を少しでも願ったエミリ先生(シャーロット・ランプリング)たちが、彼らに魂があることを証明するためだけに絵を描かせていたのだ。

 要は人とまったく同じのようなクローン人間たちだが、世間的には魂があるとすら信じられていなかったのだ。
 クローン人間も我々同様の魂の重さはあるし、絵も描けるし、映画に笑えるし、恋もする。
 ただ違うのは世間が思う魂の重み。
 彼らはゴミ同然のガラクタに大喜びし、外に出ると八つ裂きにあって死ぬと本気で信じこまされている。
 そのような魂の重みしか与えられていないのだ。

 そしてもう一度彼らが魂の重みを証明するためにしていた行動を思い出すと、彼らは他者を愛し、他者を傷つけることで魂の重さを感じ、他者に傷つけられることで魂の軽さを感じた。
 魂の重み云々は他者によって初めて規定されるものなのかもしれない。

 だからクローン人間たちはそれぞれ最後に真実の愛を知りその重き魂を感じた。トミーとキャシーはお互いに愛しあい、互いの魂を重くした。


 しかし恐ろしいのはその重き魂を素直に臓器提供に応じることで「終了」させていったということ。
 死に恐怖しながらも素直に臓器提供をするクローン人間たち。いくら彼らが魂のある存在であっても、そこに人間との間に違いを感じてしまった。

 彼らは結局、世間に飼い慣らされて魂を軽くされてしまっているままなのだ。そしてそのような扱いのもと生きているために「臓器提供」に対して根本的な疑問は抱かない。
 彼らを哀れんで一生懸命臓器提供の恐ろしさを説いたルーシー先生(サリー・ホーキンス)に対して目がクエスチョンマークだった幼少の頃と基本的にはなんら変わっていなかったのだ。

 彼らが世間において魂の存在を認めてもらえないことよりも、彼らが「当たり前」と思って疑わないその「魂の軽さ」がひたすら悲しかった。
 そして、クローン人間たちが臓器提供による「終了」を当たり前のように思っているのと同時に、我々もいつかは必ず「死」を迎えるのを平然と受け入れている。キャシーとトミーのように、魂の重みをどれだけ感じることができるのか、そう考えると、儚いながらもしっかりと魂の重みを実感して「終了」していったクローン人間たちがうらやましくなった。


 以上、『わたしを離さないで』は"魂の重さ"を描くが、それは他者によって規定されるものであり他者と愛し合えばその魂を重くでき、また軽視されれば問答無用で軽くなる。それはいずれ死と面会する我々にとっても他人事ではない。タイトルでもあり主人公が繰り返し聴くカセットテープ"Never let me go"は、私を見放して魂を軽くしないでほしいという魂の叫びにも感じた。



 他に良かった点としては俳優たちの透明感ある演技。精一杯生きて苦しみながらボロボロになっていくキーラ・ナイトレイが良かったです。

 あと70~80年代といった時代設定が醸すノスタルジーや過ぎ去った過去の儚さがあってこそ人の根源的な魂の問題をより強調できている気がします。

 ショッキングな題材ゆえに涙や残酷性やサスペンスのカタルシスを求めていた人には肩透かしであったとは思いますが、品の良いSFだと思います。
 カズオ・イシグロ原作と言えば『日の名残』が有名ですが、ああいった大人しく厳かな雰囲気と思っていただければいいかと。

 比嘉愛未レベル。

 次回はちょっと公開が始まってから時間が経ってしまいましたが、『ブンミおじさんの森』にカンヌのパルム・ドールを奪われてしまった『神々と男たち』の感想です。
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テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

  1. 2011/04/10(日) 02:56:46|
  2. 映画ワ行
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