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『キャタピラー』は狂気にまみれた『女性上位時代』だよ。

キャタピラー

 上官!本日は『キャタピラー』の感想でございます!
 観に行った映画館はテアトル新宿。土曜日の夕方で、ほぼ満席でした。中高年が多めでしたが、若い方もちらほら。


概要:監督は『処女ゲバゲバ』や『エロティックな関係』の若松孝二。
 赤紙が届き、盛大な見送りとともに戦場へと出征していったシゲ子(寺島しのぶ)の夫、久蔵(大西信満)。だが、ほどなくして久蔵は生きてシゲ子のもとへと戻ってきた。ところが、その姿は四肢をなくし、顔が焼けただれたあまりにも無惨なものだった。村民からは武勲を讃えられ“生ける軍神”と祀り上げられるも、旺盛な食欲と性欲をひたすら世話するだけの介護の日々に戸惑いを隠せないシゲ子。やがて、勇ましい報道とは裏腹に敗色が濃厚となる中、戦場での記憶に苛まれ混乱していく久蔵の姿に虚しさが募るシゲ子だったが…。
"allcinema online"より抜粋)


 この『キャタピラー』は反戦映画なのであろうが、その原作となっている『芋虫』作者の江戸川乱歩は別に反戦モノとして描いたわけではないそうだ。ただ傷慰軍人の性を扱いたく、軍人の悲劇を描いただけだということだ。
 で、この映画のクレジットには「原案:江戸川乱歩」とは出ていないのはそういう理由もあってか、若松孝二監督は『ジョニーは戦場に行った』と並べて、この2作をあくまで「参考にした」程度としか言っていない。なので、いくらタイトルが『キャタピラー』で内容が『芋虫』そっくりであろうと、さらにはいくら『処女ゲバゲバ』で悪夢のような世界を描いた若松孝二だからと言って、この映画に、乱歩的な、エログロの向かう先にある「美」を求めてはならないのであろう。この映画に乱歩の美学はない。そこが少し残念と言えば残念なのだが、さすが若松監督というか、乱歩の描く狂気とはまた違った狂気「戦争が市井にもたらした狂気」を描いているが、今回はそこを考えていきたい。


 この作品で描かれているシゲ子自身の、そしてシゲ子と久蔵の生々しいエゴと欲とのぶつかり合いが導くものは、戦争が平和な農村やそこに住む平凡な夫婦にもたらした「狂気」であり、太平洋戦争によって末端の人々も少なからず狂気の渦へと巻き込まれていったその悲劇である。
 人々の狂乱が国を戦争へと向かわせ、その戦争がより「狂気」へと国と人々を向かわせた。言い換えれば「戦争」とは末端の人々から始まり、やがてその戦争が「末端」をより「狂気」へと向かわせる。本作は傷痍軍人の介護というとてもミクロ(「末端」)の戦争の悲劇を描きつつ、一方で「東京大空襲」や「広島・長崎への原爆投下」という非常にマクロな戦争の悲劇を描く。太平洋戦争の死者数を見せたあと、田舎の農村のたった一人の傷痍軍人の情けない自殺を描く。こうしてマクロとミクロの戦争事情を描くことで、その両者が密接に関連していることを丹念に描く。

 さてその「狂気」について考えたい。
 今作では子供も主婦も村もラジオ局もが皆が皆、お国のため、陛下のためを第一に考え、何はともあれ戦争に向けて一丸となっている描写が多く見受けられるが、これはやはり「狂気」的である。現代人が見たら気味が悪い。それは例えば主婦たちの竹槍訓練だったり、ラジオの都合のいい戦況報告だったり、隣人を「軍神様」といって拝んだりする姿である。集団の狂気はその集団内に入っていれば、むしろ「正気」であり、それを「狂気」と思うものが狂人であるはずだ。シゲ子も久蔵のむごたらしい姿を見るまでは、それを「狂気」とは思わなかったのではないだろうか。夫の暴力にも、「穴と腹」として虐げられていた差別にも、それをそういうものとして受け止め耐えていた。それは彼女にとって狂気ではなかった。
 また久蔵も、敵地で民間人の女性を強姦し殺していたが、我々の今の価値観からみたその「狂気」もやはり、彼が属している世界・次元では狂気ではなかった。
 村人たちの戦争に対する熱意をけたけた笑い、間抜けに真似して、敗戦を大喜びする篠原勝之演じる「クマ」が、狂人扱いされているのが皮肉として効いている。

 やがてシゲ子は久蔵が「キャタピラー」になり、欲をむさぼるだけの存在になりながら、それでも勲章や自分が讃えられている新聞の切り抜きに依存していることに強烈な違和感を感じ、今まで自分がいたこの世界は狂気にまみれた世界であったと感じる。
 久蔵もまたものも言えず抵抗もできない自分をいじめるシゲ子の、いままで虐げられてきた女性としての「復讐」(セックスは基本女性上位の騎乗位である)に、人間として、男性としての尊厳どころか、いままで自身が身を置いてきた全ての価値観を崩壊され、自身が「狂気」の渦中にいることを知る。「キャタピラー」である彼がこの狂気の世界で生きるために必要なのは、それでも旧来の価値観に依存し「軍神」としてありつづけることであった。

 いままでいた世界を「狂気」と感じることで、はじめて「女」ではなく「人間」としての自覚に芽生えたシゲ子は久蔵に様々な感情を巡らす。怒り、ねたみ、同情、性愛、母性などなど。それははつらつとした「生命」の感情である。
 そして寺島しのぶの母親のような優しさのあと、少女っぽいいたずらっぽい表情がきて、突然色気にまみれた大人の顔を見せるようなその美しく可愛く恐ろしい演技に、我々はまた今までとは別種の「狂気」を感じる。『女は女である』でアンナ・カリーナのはつらつとした可愛らしさが見せた「狂気」と同種のものではないだろうか。

 「狂気」とは相対的なものである以上、絶対的に「正気」なものなどなく、生きることはそれ自体、最も狂気的な行為なのではないだろうかと、私は考える。


 以上、今作において描かれる乱歩の『芋虫』とは別種の「狂気」とは、戦争がもたらした市井の人々の「狂気」であり、一方で、それを「狂気」と感じる我々もまた別種の「狂気」の中にいるのではないかと、この映画は描いていると読めた。


 不満点は、冒頭にも書きましたが、「戦争の狂気」を描くなら描くでもっと徹底的に狂気的に見せて欲しかったです。やっぱり『処女ゲバゲバ』の悪夢のような狂気を。ちょっとパンチが足りない。
 あとエンディングの元ちとせの歌はインパクトはあるけれど、「反戦」という大きな括り以外に、作品のテーマにあんまり関係なくないか?って。


 一見難しそうな作品ですが、そんなことはございません。『アイアンマン2』くらいの難易度で、どなたも理解しやすく、どなたも考えさせられる見やすい映画だと思うので、普通にオススメできます。まぁデートやファミリー向けではないですけれど。

 北川景子レベル。

 次回も「女性映画」だと思わなくてはならない、『何も変えてはならない』の感想を書かなくてはならない。


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テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

  1. 2010/09/04(土) 01:49:52|
  2. 映画カ行
  3. | トラックバック:6
  4. | コメント:4
<<『何も変えてはならない』は「今」しかないよ。 | ホーム | 『キャッツ&ドッグス 地球最大の肉球大戦争』はアニメでもよかったよ。>>

コメント

いーもー虫ごーろごろ♪と歌いたくなります(汗)。
元ちとせの『死んだ女の子』という歌が嵌りすぎてて怖いw。
  1. 2010/09/10(金) 13:51:27 |
  2. URL |
  3. ブリ #-
  4. [ 編集 ]

 >ブリ様

 あの歌坂本龍一作曲なんですよね。
 4年くらい前に出したアルバムに収録されていたのを記憶しております。
 個人的には、既存の曲ではなく、作品のテーマ性等に即した新しい曲を作っていただきたかったかなと。雰囲気はおどろおどろしくていいんですけれどね。
  1. 2010/09/11(土) 01:00:22 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

「死んだ女の子」は、外山雄三作曲です。
坂本龍一は編曲なのでお間違えのなきよう。
また、元々これは最初からEDとしてあったわけではなく、
若松監督がこれに感銘を受けた為、商業作品になった際、
EDにとお願いしたわけです。
  1. 2010/10/12(火) 04:06:20 |
  2. URL |
  3. 通りすがり #-
  4. [ 編集 ]

 そうですね。作曲じゃないですね。間違えてました。ご指摘ありがとうございます。

>また、元々これは最初からEDとしてあったわけではなく、
>若松監督がこれに感銘を受けた為、商業作品になった際、
>EDにとお願いしたわけです。

 はい、そうですね。なのでどちらかというともっとテーマに即した新しい曲を作っていただきたかったかなって。
  1. 2010/10/12(火) 10:50:43 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

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