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『瞳の奥の秘密』は過去の映画だよ。

瞳の奥の秘密

 今週映画の感想を一つも書かないのはなんかカッコがつかないので、1つだけ。前回サイコロで当てた『瞳の奥の秘密』の感想です。

 観に行った映画館はTOHOシネマズシャンテ。信頼のシャンテ枠。毎月14日の1000円の日だったのもあり前方をのぞいて満席。客層はこの映画館らしく例によって40代以上が多め。


概要:09年のアルゼンチン作品、アカデミー外国語映画賞を受賞。監督はフアン・ホセ・カンパネラというテレビドラマ系の人らしい。向こうのテレビ屋は立派ですね、それにひきかえ日本のテレビ屋ときたら…。
 刑事裁判所を定年退職したベンハミン・エスポシト(リカルド・ダリン)は、有り余る時間を使って、彼の人生で未だ忘れることの出来ないある殺人事件を小説にしようと決意する。そしてかつての職場を訪ね、当時の彼の上司で、今では検事に昇格している女性イレーネ(ソレダ・ビジャミル)と再会を果たす。2人が関わった事件が起きたのは、25年も前の1974年。銀行員リカルド・モラレス(パブロ・ラゴ)の最愛の妻が自宅で暴行殺害された事件。やがて捜査は暗礁に乗り上げ、そのまま1年が経った頃、ベンハミンは駅で容疑者発見に執念を燃やすリカルドを偶然目にする。その姿に触発され、イレーネとともに捜査を再開したベンハミンは、ついに事件の核心へと迫るのだったが…。
("allcinema online"より抜粋)


 本作の映像表現はやたらとバタ臭い。観客視点となる登場人物に毎回きちんとカメラの焦点を当てたり、ゆったりしっかりとした丁寧なカメラワークだったり、フィルムの特性を活かした強めのコントラストだったり、センチメンタリックで印象的なピアノのBGMだったり、アルゼンチンの湿度や光の加減も加わってまるで『ひまわり』のような70年代のヨーロッパ映画を見ているようで、それらの調和が言いも知れぬノスタルジーを奏でている。
 そしてその「ノスタルジックな映像」が、いつまでも映画の中に漂っていたいような甘美で危険な誘惑をしてくる。この「誘惑」「そこから脱却」がこの作品が描きたかったものなのではないだろうか。そこについて書いてみたい。


 まず「誘惑」についての解説。
 本作は「過去との付き合い方」を描いている物語である。
 現在に生きる主人公ベンハミンとイレーネが25年前の殺人事件を追憶するところから始まり、過去と現在を行ったり来たりする構成だが、そこにあらわれる登場人物は皆が皆「過去」に囚われ続けている。例えば運命の恋に諦めがつかないベンハミンやイレーネ、初恋を引きずるイシドロ・ゴメス(ハビエル・ゴディーノ)、かつての幸せだった日々に固執し亡き妻を愛しつづけるモラレスなど。
 ただ、殺人事件に関わった彼らが特別なのではない。誰しもが忘れられない楽しかった思い出や、後悔してもしきれない過去があるように、この物語の主軸となるのは凄惨な殺人事件であるけれど、一方でとても普遍的なテーマを扱っていると言える。

 何が一番恐ろしいって、過去に怯えて暮らすほど惨めで恐ろしいものはない。だからベンハミンは過去を清算すべく事件を小説にしたし、モラレスは「加害者の男」に全てを終わらせる死刑ではなく、永遠に過去に縛られる終身刑を求めた。過去に怯えるのは今を生きていない証拠だが、そういう後ろめたさは誰しもにあるはずだ。そして「あのときこうしていれば…」とか「たられば」でいつまでも悶々と非現実的に悩んだりする。
 また一方で、人は都合のいい生き物で、大抵の「過去」は、楽しかった記憶しか覚えていないものである。「昔の自分は気楽に過ごせて良かったなあ」なんてよく思ってしまうが、その当時の自分はやはり似たように過去の自分を「気楽だったなー」なんて考えていたり、胸が張り裂けそうに苦しんだ片想いの恋も今思えばほろ苦いいい思い出だったりする。だから「過去」への追憶に身をまかせることはまた現実逃避の快楽であったりする。

 結局「過去への後悔」も「楽しかった思い出の反芻」も、「過去」への現実逃避の点で似た行為であり、ベンハミンが25年前の殺人事件を追憶する際に、何故か事件とは直接は関係ないはずの、想いを告げられなかった運命の恋の淡い思い出に気持ちが向かってしまうのも、25年前の殺人事件や恋に対するいくつもの「たられば」が、恋の淡く美しい(「淡く美しい」ものへと時を経て変質した)思い出にくるまれ、結果そこに収縮されるからなのであろう。

 この作品の映像が、凄惨な殺人事件の物語なのに、ノスタルジーに溢れいつまでも映画の中にいたい気持ちにさせるのも、この映画が「過去」を描いた映画だからであり、「過去」は時を経れば経るほど美しくなるのである。


 続いて「追憶からの脱却」について。

 「過去」への反芻が悪いことでは決してないが、あまりにそれがすぎるとモラレスのように「今」を生きることはできなくなる。しかし、人は「過去」と離別して生きることは不可能である。
 「過去」とはその人を築いた歴史であり、アイデンティティー、それは「瞳」に現れていると本作は語る。
 「動物と人間の違いは何か」ってよくある質問に対してよくある答えの一つが「人間には過去や未来があるが、動物には今しかない」というもの。『キャッツ&ドッグス 地球最大の肉球大戦争』がCGで葬り去った、動物のアニマルむき出しの瞳には「今」しか映っていない。一方で『恐怖』の登場人物たちが見せたあのカッと見開いているのにどんよりと曇った瞳には彼らの積もり積もった壮絶な過去が現れている。

 このように「過去」とは、その人を構成している歴史である。いくら取り繕うとも、その「瞳」の奥に映るその人が積みかさねてきた「過去」を隠すことは難しい。
 結果、人間は「過去」によって構築されており、それなしで生きる事は不可能なのだ。

 過去の栄光や後悔に自らを浸らせることは、とてもラクだ。前進すれば栄光の喪失や再び深い後悔が訪れるかもしれないという恐怖がある。だから人はよく立ち止まってしまう。この作品の映像が放つ「甘美で危険な誘惑」とは「追憶」への誘惑だ。そこに浸っている限り我々は常にぬるま湯状態だ。

 そして、モラレスのようにそのまま進めなくなる人もいる。それはまさに彼が「加害者」に望んだ「終身刑」である。
 かと言って先に行った通り「過去」から解き放たれて生きることは不可能であり、人は「過去」と永遠に付き合わなければならない。モラレスは同じ境遇になりそうなベンハミンを見て「いい選択をしろ」と言う。歴史が常に捏造されてその形を変えていくように、過去とはその人の考えよう解釈の仕様によってはどうとでもなる。我々は「過去」に対し「いい解釈」をして、今に活かすことが可能である。もちろんそれは困難かもしれないが。
 ベンハミンがそれを知ったとき、物語は様々な伏線を活かし、ある「悪い解釈」と、ある「いい解釈」を観客に提示する。両者は紙一重でありながら、前者はあまりに恐ろしく、後者はとても感動的。まるで“TEMO”(私は恐い)と“TEAMO”(私は愛する)のスペルミスのように。("a"が打てないタイプライターってここにかかっていたのかって今気がつきました、すげーうまい!)


 以上、本作は「過去」を取り扱った作品であり、その映像はノスタルジックでとても美しい。しかしながら、その「追憶」の体験は、時に今を生きれなくなるという危険性を帯びている。そしてこの作品はその「過去」に対し「解釈する」という権利があることを提示しているのである。

 不満点は特にございません。できたらブエノスアイレスの美しい景色をもうちょい見せて欲しかったかなって。あとパブロ(ギレルモ・フランセーヤ)の酒とか妻とか、あの「決断」とかもうちょっと深く描いて欲しかったです。
 
 あと、メイクで若くなったり老けたりの技術がすげーなとか、演技力とメイク力か。
 あの小粋な終幕に娯楽作品とはこういう作品だ!と鼻息を荒げてしまいました。もう一回観に行きたいです。

 生野陽子レベル。

 次回は結局観に行っちゃいました『怪談新耳袋 怪奇』前編『ツキモノ』の感想をかきます、ギャー!!


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  1. 2010/09/19(日) 01:12:08|
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  3. | トラックバック:7
  4. | コメント:4
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コメント

タイプライターのくだり、今気づかされました…うぬぬー、なるほど!コッポラの作品のような作品美を感じました。
しかし私は生野アナは好きじゃないです!
  1. 2010/09/20(月) 00:34:14 |
  2. URL |
  3. かみやま #-
  4. [ 編集 ]

>かみやま様

 コメントありがとうございます。
 たぶん、見れば見るほどからくりがうまい感じで張り巡らされていて、新しい発見がある作品だと思います。
 何度か見ればパブロが何を考えていたかわかるのだろうか。

 生野アナは数年ぶりのヒットです。「しょうの」と書いても変換できないから、「なまのあな」と書く…やめておきましょう。
  1. 2010/09/20(月) 01:27:49 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

なななな、なまのあな。

しまった。反応する場所を間違えた。
  1. 2010/12/25(土) 09:30:19 |
  2. URL |
  3. ふじき78 #rOBHfPzg
  4. [ 編集 ]

>ふじき78さま
 こんにちは。
 反応してくれると思っていました。ありがとうございます。
  1. 2010/12/25(土) 22:35:04 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

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『瞳の奥の秘密』(2009)/スペイン・アルゼンチン

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