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『死刑台のエレベーター(2010/日)』はおもしろ日本語カバーだよ。

死刑台のエレベーター

 もう12月になってしまったではないか。
 12月は見たい映画が死ぬほどあって、数えてみたら14本ありました。2日に一本見なきゃ間に合わない。

 そんな中、こんなん観に行っている暇あるのかっていう、前回サイコロであてた、『死刑台のエレベーター(2010/日)』の感想でございます。

 観に行った映画館は角川シネマ新宿。かなりちっぽけな劇場でしたが、公開後時間が経っているのもあり、あまり混雑はしていなかったかな。若い人はほとんどいなくて30~40代くらいの一人客が数人。老夫婦が一組といった感じ。


概要:1957年フランスのルイ・マルの名作を、現代の日本に舞台を置き換えてリメイク。監督は『独立少年合唱団』『いつか読書する日』『のんちゃんのり弁』の緒方明。
 大企業、手都グループの会長夫人・芽衣子(吉瀬美智子)と、会長に拾われた医師・時籐隆彦(阿部寛)とは愛人関係。2人はある時、芽衣子の夫・孝光(津川雅彦)を自殺に見せかけ殺害する周到な計画を企てる。それはものの15分で終わる完全犯罪のはずだった。当日、芽衣子が約束の場所で待つ中、手都ビルの会長室へ侵入し、孝光殺害に及ぶ時籐。しかし運悪く、乗り込んだエレベーターが突然停止し、その中に閉じ込められてしまう。その時、ビルの外では一組の無軌道な若いカップル赤木邦衛(玉山鉄二)と松本美加代(北川景子)が停めてあった時籐の車を盗み出す。ちょうど同じ頃、芽衣子のほうは、予定の時間を過ぎても一向に現われず、連絡もつかない時籐に、次第に苛立ちと不安を募らせるのだったが…。
"allcinema online"より抜粋)


 オリジナルの1957年の『死刑台のエレベーター』は、50~60年代のヌーヴェル・ヴァーグの一連の作品のなかでもかなり好きな作品であり、それまでロック一辺倒だったぼくにジャズを教えてくれた映画でもあります。
 オリジナル版は「感情の衝動」っていうヌーヴェル・ヴァーグの映画作品をはじめ多くのアートがその根源に抱く重要なエネルギーを、完全犯罪が「衝動」によって崩壊していくという物語によって描いていて、その「衝動」の持つ恐ろしさ、危険性、美しさ、奇抜さ、カッコ良さなどを描いていたのではないかと考える。そして「衝動」のテーマはマイルス・デイビスの伝説の即興スコアにも通じていくし、当時25歳だったルイ・マル監督の若さ故の衝動というものにも通じていくし、何より戦後間もなく若いエネルギーに溢れていた当時のフランスの若さ故の衝動というものにも通じる。

 で、この57年のフランスだからこそ作られた「衝動的な」作品を、2010年の東京を舞台にリメイクすることにどのような意味があるのか。本作が語られる余地があるとすればまずそこに論点を置くのが妥当だと思うのだが、正直リメイクする理由がまったく見当たりませんでした。


 最近のこの手のリメイクとか原作つきの日本映画の「新しいストーリー考えるの大変だし、出来のいい既成の物語引っ張ってきて流行りの俳優使えば形にも金にもなるよね」ってダメすぎる発想はもう毎度のことすぎて意識もしやしませんが、今回は例えばリメイク版『用心棒』とかよりずーっと時代や土地が重要な作品のリメイクであり、そういう要素を無視してストーリーだけなぞったらどうなるか、といったようなある意味実験精神に溢れた映画に感じました。


 で、ストーリーは流石で、ほとんどオリジナルそのまんまですから、巧妙でよく出来ているんです。ですが、この物語を活かすだけの演出力も役者の演技力も時代性も、なにより作家性も皆無。そのためちょっと座りがいいところに落ち着いているだけの三文スリラーにおちぶれてしまっているのである。
 そこらへんをちょこちょこ解説したいと思います。

 まず、最も根本的な問題として、本作の舞台が50年代末のフランスではない問題。
 あの当時のあの国であったからこそ起こり得るドラマや人間関係ってのがオリジナル版にはあって、例えば主人公ジュリアン(モーリス・ロネ)がそこらへんの花屋のお姉ちゃんや喫茶店のお姉ちゃんと名前で呼び合うほどフレンドリーだったり、深夜街を歩けば色々と知り合いに出会ったり、今よりもっと目に見える形で身分格差というものが存在していたり。そういうのって当時のフランス独特のものであったと思うんです。
 そういうトポスや時代性の考慮をほぼしないでオリジナル版のままの人間関係を継承しているから現代日本で展開するにはすごく不自然なドラマになっている。登場人物が街を歩けばやたらと知り合いに出くわすし、職業差別甚だしいような、年上に対しての命令口調が横行しているし。
 あとミステリーのトリックにも不具合が生じていて、例えば監視カメラも、非常用通報機もついていないエレベーターなんていまどきないからとか、同様に監視カメラがついていない高級ペンションの受付とか、管理室のレバーを下げるだけで全停電するビルとか、今時そんなん聞いた事がない。
 そもそも「自殺に見せかけた殺人」って現代の科学技術において完全犯罪たり得るのだろうか?
 まぁそんなん突っ込んでいったらキリがないくらいありました。


 更に問題は『死刑台のエレベーター』のアイコンとも呼べるフロランスに扮するジャンヌ・モローの存在が吉瀬美智子さんだということ。申し訳ないんだけどあまりにも力量が足りなさすぎる。
 ジャンヌ・モローの役って「私のためにあの人を殺して」と言って自分では手を下さずに愛人に殺人を犯させて、自分はただ待つだけ、それどころか男が浮気をしていると疑い嫉妬に苦しむという、一歩間違えば、いや間違えなくとも見る人が見たらとんでもないバカ女に見える設定を、ジャンヌ・モローという特異な女優が持つ絶妙な美しさや雰囲気でなんとか回避していたと思うのですが、吉瀬さんがこの役を演じることでバカ女モードフルスロットル、すげームカつく。
 いちばん見ていてムカついてしまったのが、やたら上から目線な所、自分よりあからさまに年上の警察やタクシーの運転手にタメ口どころか命令口調だったり。例えばタクシーにどかどか乗りこんで「あの車を追って!」「お客さん、面倒は困りますよぉ」「いいからさっさと車を出しなさい!」…こんなバカ客、乗車拒否しちまえ!
 あと警察署長に「タクシー代がないの」って金をせびったり。電車かバスで帰れよ。
 まあこの映画、先ほども書いたように当時のフランスのビルの警備員役の笹野高史に阿部寛どころか20代と思われる阿部寛の秘書までもがタメ口だったりする一方で、笹野高史が彼らにヘコヘコしていたり色々と狂った世界が展開されるんですが。
 あと、オリジナル版のキモは、常に鉄の表情を保って感情を出さなかったジャンヌ・モローが、最後の最後に現像された写真の中でだけチャーミングな笑顔を見せる「愛の衝動」ってのが一番の盛り上がりポイントなんだけど、吉瀬美智子はジャンヌ・モローと美人の方向性が違うっていうか、かなり人間味あふれる顔をしているから常に感情的な表情の持ち主なんですね、クールではない。ジャンヌ・モローの静かな怒りも彼女にかかれば「いいからさっさと車を出しなさい!」と言った情緒不安定なぶちギレに変換されるし、常に口角が緩んでいるような表情は最後の「写真の中だけの笑顔」を台無しにしている。


 あとマイルス・デイビス不在問題なんですが、エンドクレジットにJUDY&MARYのYUKIちゃんのゆったりとした歌が流れます。おそらくこのスタッフは日本のマイルス・デイビス足りえるのはYUKIちゃんしかいねえ!って思って彼女を登用したのだという推測をさせていただきましたが、音楽に関しては、もちろんマイルス・デイビスの方が数千倍好きだけど、このテーマソング以外はそれでも頑張っていたとは思います。


 あとあと、いくらまんまとはいえ多少の変更点は見られていて、例えばオリジナルのような戦後ではないので、ペンションで起こる第二の殺人は戦争の遺恨を原因にする事ができないため、平泉成が演じるキャラクターがヤクザになったり、彼の情婦(りょう)と玉山鉄二がかつて恋人関係だったという因縁によって起きた殺人になっていました。愛人の平泉成を殺された際の「あぁ死んじゃった、あんたばかじゃないの?」っていうりょうの演技はなかなか良かったです。でも、車に置き忘れていた阿部寛(ジュリアン)のピストルで殺すのがキモなのに、警察官である玉山哲治のピストルで殺しちゃっているのね。どうなんだろ。

 他の変更点として、オリジナルでもちょっとツッコミどころであった、主人公がロープを殺害現場に置き忘れてしまうシーンにも変更が加えられている。変更というのは、オリジナルにおけるロープを置き忘れてしまうという完全犯罪云々を語る以前のミスから、ロープがひっかけた柵からなかなか外れなくて仕方なく置きっぱなしにしてあとで取りにいったらエレベーターに閉じ込められてしまうという変更。その変更は悪くないと思うのですが、彼がエレベーターに閉じ込められている間に車が盗まれるという展開、これに無理があって、このご時世に車に鍵をかけ忘れるどころかルーフ開きっぱなしだし、携帯電話は忘れるし、結局「完全犯罪云々を語る以前のミス」になってしまっているのである。

 最後に「大佐」と呼ばれる黒人の新キャラクターや途中で吉瀬美智子に話かける白人の少女問題。外人の友達がいるとカッコイイとか、外人の子供オシャレとか、英語ペラペラ喋るとカッコイイとか、100円ショップ並の安っぽい欧米コンプレックス丸出しなのはどうだろうかと。


 以上のような理由で、現代の日本でこの作品をリメイクする意味がまるで感じられないのですが、例えばオリジナルの骨子だけをちょうだいして、舞台を江戸時代にするとか、萌えアニメにしてしまうとか、そういう原点をリスペクトしつつ独自の解釈なり色調などを加えるってのがリメイクの正しい形なのではないかと。こういう手抜きリメイクって最近の日本の流行歌にはびこっている、昔の曲をただ歌いましたってだけのカバーに近いものを感じられます。


 良かった点は、作品全体におけるザラついた死の匂いがする色調とか(フィルムならとても良かったんだけど)、あと玉山鉄二は良い俳優だなって、どのような役でもきちんとこなしていて、目がギラギラしていて迫力がある。あと先ほども書いたりょうの演技とか、あと北川景子のパンチラっぽいショットとか。堂々としていながら、我ここにあらずの状況に苦悩し、身体をはってその苦悩と戦おうとする阿部寛も悪くなかったです。

 心の広いオリジナルのファンは、見てもいいと思います。オリジナルとの対比で今日本映画界が抱えている絶望的な何かを感じられるかと。ただまあこれ見るならもう一度オリジナルを見た方が有意義な時間が得られる可能性も! 最近あまりみかけない、例えば中山美穂のマライア・キャリーの歌の日本語カバーとか、加トちゃんのスキャットマンジョンのカバーとか、そういうおもしろ日本語カバーソングに近い楽しみ方なら出来ると思います。
 これを見たからには、場内爆笑の嵐ともっぱら評判の、もう一つの日本語カバー『ゴースト もう一度抱きしめたい』も見なくてはならないのだろうか。
 マルシアレベル。


 次回は河瀬直美先生の新作ドキュメンタリー映画『玄牝(げんぴん)』の感想を書くおぎゃー。


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  1. 2010/12/03(金) 11:54:42|
  2. 映画サ行
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  1. 2011/02/12(土) 11:01:37 |
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