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『玄牝 -げんぴん-』で人類補完計画に加わろうよ。

玄牝

 12月はラストスパート、たくさん映画を観に行くつもりですので、更新もサクサクしていかないと追いつきません。予告編の時点で既に退屈なゴダールの新作『ソシアリスム』などが待ち構えておりまして、戦々恐々でございます。
 今回取り扱うのは『玄牝(げんぴん)』。ふりがな込みで正式名称なのだろうか。

 観に行った映画館はユーロスペース。ここは水曜日割引がないのでファーストデイに必ず行ってしまっているのですが、今回はそこまで混んでいませんでした。若い女性が多め。妊婦さんらしき人もちらほらと。若い男性も何人かいらっしゃいました。


概要:監督・撮影は『萌の朱雀』『殯の森』の河瀬直美のドキュメンタリー映画。
 愛知県岡崎市にある美しい自然に囲まれた産婦人科、吉村医院にカメラを据え、“不安はお産の大敵”と語り、出産準備に昔ながらの生活習慣を取り入れ自然分娩を実践する吉村正医院長の指導のもと、自然なお産を願い全国から集まってきた妊婦たちの出産までの道のりを記録していく。
("allcinema online"より抜粋)


 本作は発達しすぎた文明に身を置く我々を「人間は地球の一部としての生き物であり、自然が美しいように、人間の生命もまた美しい」という忘れられがちな生命の原点へと回帰させてくれる映画ではないだろうか。

 本作の吉村医院長が勧める、昔ながらの生活習慣を取り入れた出産法は、「人間が人間であること」を肯定する哲学なのであろう。人間が人間らしく「生き物・地球の一部分」として自然と共に生きることを肯定し、科学技術の進化をあまり肯定しない。

 「食・睡眠・性」など、生きるために必要不可欠な活動は快感をともなう。気持ちがいい。そして何よりも「生」を実感する「出産」に関しても、本来快感は伴うものなのだろうか、映画の終盤で出産している妊婦はまるでセックスの際の喘ぎ声のように「気持ちいい」と叫ぶ。吉村医院長はその快感を肯定する。
 そのため最新機器に囲まれたお産を非難し、昔ながらの人間が自然と共存できていたころの出産をさせる。
 「妊婦である自分が誇らしい」と快活に言う妊婦や、がに股で見事な薪割りをする妊婦など、彼女たちは自然に囲まれた生活を送り、妊娠していない時よりずっとたくましくエネルギッシュに生活している。それは弾けるような生命感でキラキラ輝いているように見える。
 中盤登場する、夫が行方不明だと言う妊婦は現代社会の病理に犯された生活をしている。それが吉村医院に通い、自然と交わって身体を動かし、生命の輝きを取り戻すにつれ、異常なほどの「生の快感」を感じ、ピアニカの演奏に、奏者が困ってしまうほどの、号泣をする。

 それに添うような河瀬直美監督による「生命」にあふれる映像はさすがといった調子。人が何かしらの強大な力(それは今作を含め多くの場合「神」である)によって生かされているのではないかという予感を感じさせる。


 そして面白いのは吉村医院長は「死」すらも肯定していること。「現代医学の死の否定は、それに対応する生すら否定している。死とはそこにあるもので、それから目を背けて生の実感はない」とし、出産における母子の死を否定せず帝王切開などはしない。
 これに対して賛同できない観客はかなり多いだろう。それはエゴイスティックでまるで新興宗教的にも見えるし、その行きすぎたナチュラリストっぷりにぼくも気持ち悪さを覚えた。
 本作はその気持ち悪いという観客の感情も否定しない。吉村医院長の娘や、吉村医院に務める助産婦などの、彼のエゴイズムに対する不満意見もきちんと撮る。そもそも吉村医師のいでたちやあまりに突飛な文明批判の生命論は、妊娠していない者(そして妊娠することは決してない男性)にとって、あまりにも論が飛躍しすぎていて簡単には信じられない。

 しかし、終盤近く、母親に抱かれる赤ん坊のアップがある。太陽に照らされ、機嫌良さそうにする赤ん坊は、とても美しい。生命の甘い匂いが劇場内に漂ってきた。
 確かに吉村医院長の言う事は突飛だし極論である。しかしながら、彼の言う、現代人が失っている、生命の本来的な美しさ(それはたくましく、そして厳しく過酷でモロい)というのは、河瀬直美の撮影する赤ん坊や雨や草木の映像で説得力を持って表現される。発達しすぎた文明に囲まれ、自然ではなく科学技術に生かされて、生物としての根源を見失いがちな我々に生命の神秘へと触れさせてくれる。


 吉村医院長は、「生」と「死」をありのままに見つめ、産婦人科として多くの「生」を繋いでいくことで、自らを一つの生命の集合体・連鎖の中へとリンクさせようとする。それは、人間を地球の一部と見なす事で、彼が見いだした「死」の克服である。
 『黒い十人の女』「女性は子供産めるからいいよ、嫌がおうにも生命の神秘に触れられる。その点、男性は悲劇ですよ」みたいなセリフがある。出産シーン、男性である吉村医院長はただ客観的に見つめる事しかできない。女性は子供を産む事で地球の一部へとなることができる。何人もの「生」と「死」に立ち会い、男性の「生物」としての立場の弱さを知った吉村医院長だからこそ、上記のような「死を克服する哲学」へと至ったのではないだろうか。そういう点で、子供を生むことができない男性こそ見るべき映画なのかもしれない。


 あと、「生命の本来的な姿」を重視する割には、飼っている犬がダックスフンドという人の手で作られた犬だったり、妊婦さんを運動させるのもいいけれど、できたらそのダックスフンドもちゃんと運動させて方がいいのではないかってほど太っていたのがツッコミポイント。

 小明レベル。

 次回は怪獣映画ですよ。『デスカッパ』の感想を書きます。
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テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

  1. 2010/12/05(日) 01:47:11|
  2. 映画カ行
  3. | トラックバック:3
  4. | コメント:2
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コメント

ビビリだからこわかったっす

なんか生命力が強すぎて、そのうち走り回りながらお産するんじゃないかと言う勢いがちょっと怖かったです。
  1. 2010/12/06(月) 00:01:51 |
  2. URL |
  3. ふじき78 #rOBHfPzg
  4. [ 編集 ]

>ふじき78さま

 確かに怖かったです。その怖さがまた美しいのだろうけれど。生命って怖いものなんですね。
  1. 2010/12/06(月) 01:32:36 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

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玄牝 -げんぴん-

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