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『冷たい熱帯魚』は恐怖のアダルトビデオだよ。

冷たい熱帯魚

 映画感想の本数もかなり増えてきたので、あいうえお順にしてみましたが、「索引」みたいのきちんと作った方がいいですよね。過去に何の感想を書いたか分からなくなっちゃうので。

 今回はタ行だよ『冷たい熱帯魚』の感想。
 
 観に行った映画館はテアトル新宿。平日の昼間でも満席で立見が出ていると聞いて、1000円で見れる水曜日の夜に観たかったのもあり、3日前に一度行ってチケットを購入しました。
 てなわけで立見もたくさんの満席。若い人が多めでした。
 まず、ここに向かう途中でよくサイコロを転がして映画を一緒に行っている友人に出くわして、あら偶然と、違う席でしたが一緒に映画を観て、帰ろうと思ったら、なんと主演の吹越満さん、でんでんさん、黒沢あすかさん、梶原ひかりさんが偶然観に来ていたらしく、急遽舞台挨拶&握手会に。ラッキー。吹越さん渋かった、黒沢さんエロかった、梶原さんは可愛くてテレた。でんでんさんは怖かったです…。


概要:94年におきた埼玉愛犬家殺人事件をモチーフに『自殺サークル』『紀子の食卓』『愛のむきだし』の園子温が監督。脚本は『タマフル』リスナーにもおなじみ高橋ヨシキさん。インパクトの強い音楽は『愛のむきだし』や『赤んぼ少女』の原田智英。
 2009年1月14日。小さな熱帯魚屋を経営する社本信行(吹越満)とその妻・妙子(神楽坂恵)は、万引で捕まった娘・美津子(梶原ひかり)を引き取りにスーパーへと向かう。すると、その場に居合わせた店長の知り合いという村田幸雄(でんでん)の取りなしで、美津子は何とか無罪放免に。村田も熱帯魚屋のオーナーだったが、規模は社本の店とは比べものにならないほど大きなものだった。人の良さそうな村田は、美津子を自分の店で預かってもいいと提案、継母である妙子との不仲に頭を痛めていた社本は、その申し出を受入れることに。さらに村田は、高級熱帯魚の繁殖という儲け話にも社本を誘い込む。その口の上手さと押しの強さを前に、いつの間にか村田のペースに呑み込まれてしまう社本だったが…。
("allcinema online"より抜粋)


 本作はまるで下手なアダルトビデオのような、それが与える「性」という生命の本来的な興奮が「複製品」であることを知ってか知らずか享受し、それできちんと「生きている」と勘違いしている我々現代人の目を覚まさせてくれるとんでもない作品だと思う。


 多くのアダルトビデオ作品はどこか嘘くさい。出演者の演技はいい加減だし、現実ではあり得ないセックスが描かれ、そこに写される人間は、『ソーシャル・ネットワーク』で描かれた「データ化された友達」同様に、「生命感」を奪われたただ「男」「女」…など記号的な役割だけのキャラクターと成り果てている。しかしそれでも我々男性はきちんと興奮できる。

 で、この作品『冷たい熱帯魚』もそんなアダルトビデオ的な要素が多くある。

 まず冒頭、乱暴にレンジで温める白米や、インスタント味噌汁、ほか様々な冷凍食品を買い漁る妻・妙子の描写から始まり、それを黙々と食す一見平凡な家庭(かろうじて平凡な過程の体裁を保っている)の社本一家、しかし一切の会話はなく、三者とも目を合わせていない。娘・美津子に至っては男友達から誘いの電話がきたので食事を放って無言で出かける始末。
 残飯は無造作に捨てられ、食器は食器洗い機に投げ込むように入れられる。恐ろしいほどの均一的なテンポで描写されるこれら一連の「普通の家族っぽい描写」は機械的で、薄っぺらく、胡散臭い欺瞞に溢れている。この薄っぺらな嘘くささがアダルトビデオ的。
 食器洗い機の轟音と「どーんどーん」と胃に響くBGMが、観客に「お前らはそれでいいのか? それで生きていると言えるのか?」と問いかけてくるようである。
 主人公・社本は食事したあと嘔吐する。肉体が嘘の食事を拒否してしまっているのだ。


 そして「アダルトビデオ的」と言えばなんといってもでんでん演じる村田とその妻・愛子(黒沢あすか)のキャラクター。ちょっとがさつでマッチョニズムだが気のいい俗っぽいおどけたおじさんと、セクシーで優しくて綺麗なおばさんである彼らは、甘い言葉で社本一家に近づいてくる。

 人生に真っすぐに向かいあうことを面倒くさがっていた社本一家にとって、多少胡散臭い村田も面倒見のいいおじさんなのだと思う。観客だって疑いながらも、ギスギスした空気の中での彼の登場に安心する。

 実際この映画がどんな映画なのか知らずに見た人は中盤の村田の豹変に困惑しただろう。
 妙子の、窮屈な生活から飛び出したいと言わんばかりにはち切れそうにムチムチしていた胸をはだけさすとき、同業者に栄養ドリンクを飲ませたとき、あまりに突然にもう一つの顔を出す(社本が目を背けてきた取り返しのつかないヤバい日常に、強制的に目を向けさせるこの瞬間の演技がすごい)。

 「おれの考える地球はなぁー、こうゴツゴツしてんだよ」「おれはな、社本、人がいつ死ぬかわかるんだよ、人はいつか死ぬそれだけのことなんだよ」とか「俺とこいつが死んだらお前一人で(死体の解体を)やんなきゃなんないんだぞ」など、村田の言う無茶苦茶な理屈は、たまに現実離れしている。まったく別の次元の住人の発言のようである。彼には他者がいないのだ。だからそんな無茶苦茶な発言ができるし、人を平気で殺したり、妻が他の男と寝ても気にしない(それどころかむしろ推奨すらする)のだ。
 薄っぺらの甘さで人を魅了し、他者をモノのように扱う、まさに本作の持つアダルトビデオ感を象徴する存在である。

 村田の妻・愛子もまたこの狂った世界を象徴する存在だ。本作のアダルトビデオ的世界において「殺し」も「セックス」も他者をモノとして扱う点で同義であり、愛子は他者とセックスするか殺すことで他者をモノとして扱いなんとかこのヤバい日常のなか狂うことなく生き抜いてきたのだ。

 主人公社本は、村田の殺人に付き合っていくうちに今まで目を背けてきた「現実」を強制的に見ることになる。
 終盤社本に語る村田の「今までお前は自分で何かを成し遂げたことなどないんだ、自分の脚でなど立ったことないんだ、俺は自分の脚で立っているよ」という説教は正論である。ただしそれは「アダルトビデオ」の中での正論であり、二本の脚でこの世界に立つには、他者を他者と思わない、痛みなど気にしないアダルトビデオ界の住人になる必要があるのだ。

 社本はやがてアダルトビデオ界の人間となる。村田と同様に人をモノと扱い、最愛の妻や娘を殴り、愛子を抱く。そして人を殺す。

 そして偽物だらけのアダルトビデオ的な世界において「他者と人間らしく生きる」ということがなんだかわからなくなる。もしかしたら人が「生」を実感できるのは逆説的に「死」の瞬間のみなのかもしれない。登場人物たちは死んではじめて生きる実感を感じる。
 社本は最後にナイフを首につきたてて「生きるって痛いんだ」と言う。
 アダルトビデオでは経験できないことだが、本当の「生」のためのセックスは痛いし、その上、臭いし、やたらと気を使うものなのだ。
 そういえばこの映画はアダルトビデオが借りられる年齢、法的に売春してもいい年齢の18歳以上でないと見られない映画であった。

 そして18歳の美津子は、父の死でようやく「生」らしい「生」を知り、高笑いしたのではないだろうか。


 以上、『冷たい熱帯魚』アダルトビデオ的な偽物だらけの世界を描いて、現実社会の恐怖と滑稽さ、そして逆説的に本当に生きるということを描いた素晴らしい作品だと思う。

 他に良かった点として、スピーディーな展開とエグさ、『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』の大竹しのぶ一家のような、今ここにいる俗な隣人の恐怖とやたらブラックな笑い、役者たちそれぞれの怪演、神楽坂恵のエロスなどがいちいち素晴らしかったと思います。

 日本に限らず、昨今の映画においてトップクラスの比類なき面白さがあったと思います。何故だかすごく生きる勇気を与えられました。もちろん一刻も早く劇場に向かうことをオススメいたします。

 吉高由里子レベル。

 社会派である当インターネットですが、次回は戸塚ヨットスクールの真相を追ったドキュメンタリー『平成ジレンマ』の感想を殴られながら書きたいと思います。
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テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

  1. 2011/02/16(水) 15:44:10|
  2. 映画タ行
  3. | トラックバック:10
  4. | コメント:4
<<『平成ジレンマ』は体罰を推奨も非難もしないよ。 | ホーム | 『ザ・タウン』はスウィートな犯罪映画だよ。>>

コメント

どっかに投稿されてみてはいかがですか
  1. 2011/02/19(土) 17:59:26 |
  2. URL |
  3. かみやま #-
  4. [ 編集 ]

お褒めいただいてありがとうございます。
どこか投稿しようかな。
誰かぼくを映画ライターとして採用してくれないかしら。
  1. 2011/02/20(日) 01:56:51 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

はじめてこちらにおじゃまします。hychk126と申します。

『冷たい熱帯魚』についてのレビューをいくつか読んだ中で、「恐怖のアダルトビデオ」と書かれている点が一番共感できましたのでコメントさせていただきます。
実際、アダルトビデオに対して、映画が出遅れてしまっていること、というのはたくさんあると感じるのですが、そういう映画の弱さ、甘さのようなものが、ことごとく廃棄された強靭な映画だと思います。良かれ悪かれ。

トラバさせていただきます。
  1. 2011/02/21(月) 12:03:11 |
  2. URL |
  3. hychk126 #tHX44QXM
  4. [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> hychk126さま

 はじめまして。
 トラックバックありがとうございます。
 「アダルトビデオ」と例に出したものの、hychk126さんのブログを読ませていただき、あとその後観た『YOYOCHU』というドキュメンタリー映画によって、アダルトビデオの持つ強靭なリアリティを改めて感じました。
 アダルトビデオあなどれませんね。
 ブログ、大変楽しく読ませていただきました。

 また遊びに来てください。
  1. 2011/02/22(火) 12:57:29 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

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