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『アンチクライスト』は背徳的で凄惨で独りよがりだけど、愛だよ。

アンチクライスト

 今回は、あぁちゃんと書けるのかな。不安でございます。問題作『アンチクライスト』の感想。

 観に行った映画館は新宿武蔵野館。ファーストデイに行ったら、満席でした。30分前くらいに行ったけれど、立見でした。立見なんて何年ぶりだろう。客層は若い人もいましたが、この映画館の特徴でご老体も多め。


概要:監督・脚本は『キングダム』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドッグ・ヴィル』『マンダレイ』などのラース・フォン・トリアー。お父さんの変態性を見事受け継いで大胆不敵な演技を披露したシャルロット・ゲンズブールは、みごとカンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞。
 夫婦が愛し合っているさなかに、目を離していた幼い息子がマンションから転落死してしまう。深い悲しみと自責の念で精神を病んでいく妻(シャルロット・ゲンズブール)。セラピストの夫(ウィリアム・デフォー)は、自ら妻の治療に当たるべく、彼女を人里離れた森の奥の山小屋に連れて行く。妻を救いたい一心で、懸命に心理療法を施す夫だったが…。
("allcinema online"より抜粋)


 本作の監督ラース・フォントリアーが「これは私の鬱病治療のための映画」と言っていたように、この映画は、キリスト教の本質的な矛盾点にぶつかり神の存在を疑問視してしまった者が如何にして神無き世界と折り合いを見つけていくかという精神治療の物語であると思う。

 最初に不満点というか弱音をあげてしまうと、オナニーが話題になっているこの映画ですが、本当にこのラース・フォン・トリアーのオナニー的な自意識の堂々巡りを繰り返し見させられるような映画で、これを不満・不快に思う人はそれで正しいと思います。はっきりいって「おもしろい映画」ではありません。当ブログで扱った難解めの映画でいうと『ゴダール・ソシアリスム』とか『何も変えてはならない』とか『エンター・ザ・ボイド』とかは、まだ社会に目を向けていたから分かりやすかったけれど、これは完全にトリアー監督自身に向けられた映画だから、どうも解釈が難しいです。


 大学受験の国語の問題に出てきそうだけど、キリスト教的な世界観では混沌なる自然は悪であり、秩序だった理性の世界にのみ「神」はいる。例えば秩序の象徴たる人間のコミュニティである村から出ると魔物だらけといった『ドラゴンクエスト』の世界などはこれに準じている。
 また理性の逆であるところの「本能的な性」に対する欲望もカオスであり、ご存知の通りキリスト教はこれを否定する(*)。
 *しかしそう一概には言えるものではなく、後述のようにそもそもキリストも聖書もセックスを否定はしていない。性を否定しだしたのは「野蛮な肉体」と「崇高な魂」を分けて考えようとした4世紀頃の神学者の研究によるもの、その背景には政治的な考えとか色々あったらしい。で、そのような考えは現代の欧米社会にも根付いているそうな。

 一方で聖書に「神は愛」とあるように、同時にキリスト教は愛もセックスも肯定している。

 『渇き』でも描かれていたことだけれど、そこにキリスト教の根本的な矛盾が生まれてしまっている。人なくして宗教は存在せず、しかしながら人を人たらしめる性愛を否定し、また一方で「愛」こそ神であったりする。


 本作の主人公たちはセックスという「背徳的」な行為の最中、最愛の息子を事故死させてしまった。その事から神経を病んだ「彼女」は夫でセラピストである「彼」に治療を受けることとなる。
 治療として恐怖を克服するべく、「彼女」が最も恐れる「神なき混沌」たる森へ向かう二人。

 「エデン」と名付けられたその森だが、そもそもエデンの園に神などいなかったように神がいない地である。
 キリスト教的に森は、本作で「悪魔の教会」と呼ばれているように、『死霊のはらわた』『ブレアウィッチ・プロジェクト』などのホラー映画でお馴染み悪魔の住処であり、彼らはそこで悪魔を克服しようとするが逆に「神なき世界」で「神不在になった時の人の本質」に触れて次第に常軌を逸脱していく。
 ラース・フォン・トリアー監督が『リング』などのJホラーに影響を受けたという、この「森」の表現の不快さがすばらしい。屋根にドングリが落ちてくるヒステリックな不快音、悪魔が手を差し伸べているような形の樹の根の禍々しさ、『エクソシスト』の悪魔のサブリミナル映像のごとき「彼女」の恐怖の顔が見える林、地獄の入口のようなキツネの巣。シカ、キツネ、カラスの狂気的な瞳。これらの映像によって我々は「彼女」と「彼」と共に狂気的な地獄へと堕ちていく。


 そもそも「彼女」はかつてこの「エデン」にて中性の魔女狩りによる大虐殺を研究していた。彼女の研究によると人は産まれながらにして「悪魔」であるという。
 例えば女性は、後世のキリスト教解釈により人を性の虜にするものとしてその身体性から生まれながらの悪魔とされている。また「男性器の形」、セックスの際、能動的な態度を取らざるを得ない男は生まれながらにして、女性を性のみだれに導く悪魔ではないかと。
 自分たちの教祖を磔刑にした宗教であるキリスト教において人々は生まれながらにして罪人であるし、考えようによってはどこまでもどこまでもネガティブに沈んでいける側面を持つのだ。
 そして「彼女」は研究に没頭するあまり、自らを悪魔と思い込み激しく嫌悪するようになる。「彼女」は息子を失う前から悪魔に魅入られていたのだ。
 息子が窓から落ちる際、それをきちんと見ていたのにセックスを止めなかったし、どうも無自覚に虐待をしていたのである。


 それでも「彼」はなんとか「彼女」を愛そうと、「彼女」に理性の導きを与えようとする。
 しかしその行為は、この映画では、女性を「悪魔」として反キリスト教的なものとした無自覚な男性中心主義の女性蔑視行為に思える。
 そもそも「彼女」が「エデン」に籠って、魔女狩りや悪魔の研究をしていたのも、「彼」の気を引くため。「彼女」を病院の治療から無理矢理連れ出して、近親者によるセラピーはよくないと言いながらも、「彼女」の治療をしたのも「彼」。担当医との性行為はダメと言いつつなんども「彼女」と身体を重ねたのも「彼」。

 実は「彼女」を悪魔にしたのは「彼」だったのだ。

 そして「彼女」は一緒に堕ちようと、「彼」を悪魔の道へ誘い込む。
 因果応報。自分の過失やエゴによって生み出した悪魔に襲われるという、この映画、実は順当なホラー映画的な展開であるのだ。

 そこでこの映画が「彼」「彼女」という、特定の名前がない理由が分かる。「彼」とは男性の総称。「彼女」も女性の総称。世界はホラー映画。全ての男(「彼」に代表される)が全ての女(「彼女」に代表される)を悪魔に仕立て上げ、悪魔と化した女が男を地獄に連れ込もうとしている世界なのだ。


 矛盾だらけの「神」に疑問を抱き、たどり着いた「神の愛」が届かない悪の地で、結局残ったのは「悪魔」と化した「彼女」を救おうとした「彼」の「殺意」であった。その「殺意」は愛であったのか。悪魔的な暴力性に満ち満ちた愛は愛と呼べるのか。「彼女」を殺害したあとで、「彼」が聖書のアダムのごとく木に成っていた果実を食べ神と決別する。
 その直後、大量にエデンにやってくる全ての女性の顔がのっぺらぼうになっていたのは、女性を悪魔にしてしまった男性のを認め、そして全ての女性の悪魔性をも認め、それでも女性を愛そうとする悪魔的な愛の決意ではないだろうか。(*)
 この映画はオナニーでしかないと最初に書きましたが、この不気味な結末のシーンによって、ラース・フォン・トリアーはようやく他者性をかろうじて表す。それはかなり歪曲した隣人愛ではあるが、それでも彼の回復はなんとなく伝わった。
*「悪魔性のある全女性」はそれまで「彼女」が、その「彼女」という全女性をさすキャラクター名によって、その身一つで象徴していたが、それをよりわかりやすく表現したのが、のっぺらぼうになった大量の女性という終盤の映像なのではないだろうか。「全ての女性に顔がない」=「個」としてのキャラクター性を剥奪された「彼女」、という構図。


 以上、矛盾だらけで神など信じられなくなった世界で、人は人を愛せるのだろうか、人は人でいられるのだろうかというラース・フォン・トリアーの苦悩の答えとして、この『アンチクライスト』では過酷で辛辣で悪魔的な「愛」が残ったのではないだろうかと考える。そして映画は、自意識過剰で自己満足的な自問自答の中で、ほんの少しの他者性をようやく得て幕を閉じる。


 あと今ひとつ感情移入が出来なかったのは、いくらなんでも重要なシーンでモザイク入れ過ぎ。「性」がテーマのこの映画において、肝心の「性器」にモザイクを入れてしまえばテーマが伝わりづらいに決まっている。
 チキンな自主規制がどうもこの映画をむやみに難解にしているような気がする。

 あと実は生きていたセルジュ・ゲンズブールが「彼」役だったら最高だったのにとか。

 タルコフスキーの『鏡』とか『ストーカー』とかに似てるなと思ったら、本当に意識していたそうで、最後に「アンドレイ・タルコフスキーに捧ぐ」って出てました。

 そんな感じ。色々と見所はございます。見て損はないです。映像の美しさ、恐ろしさや、シャルロット・ゲンズブールの演技の凄まじさは皆が褒める通りで、それだけでも見る価値は十分にあると思います。
 ただ過度な期待はしないほうがいいかと。噂のショッキングな映像もモザイクだらけでパワーは半減以下だし。

 スザンヌレベル。

 次回は大騒ぎした割には一週遅れで観に行きました、『イップマン 葉問』のパート1にあたる、『イップマン 序章』の感想。
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