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『ブンミおじさんの森』は真っ暗闇のちゃんこ鍋だよ。

ブンミおじさん

 今回はカンヌでパルム・ドールを受賞したティム・バートンも蓮實重彦のオジサンも絶賛の『ブンミおじさんの森』というタイ映画の感想でございます。
 地震以降どうも気が滅入って仕方ないので、映画館に頑張って脚を運ぶのですが、どうも地震やそれ以降に起こった様々な事件と関連づけてみてしまいますね。ご容赦を。

 観に行った映画館はシネマライズ。地震以降初めて行った映画なのですが、噂通りガラガラでした。火曜日の安い日だったのに。みんなもっと映画館に脚を運んで!客層は中高年の一人脚がほとんど。


概要:監督・脚本はアピチャッポン・ウィーラセタクンというビデオアートや建築などを専門にしている人。
 タイ東北部のとある村。腎臓の病気で余命わずかの男性ブンミ(タナパット・サイサイマー)。ある夜、食卓に彼の亡くなった妻フエイ(ナッタカーン・アパイウォン)が現われる。さらに、行方の分からなくなっていた息子も不思議な生き物の姿となって戻ってくる。やがてブンミはフエイに導かれ、深い森の奥へと足を踏み入れるのだが…。
("allcinema online"より抜粋)


 本題から少しずれた話であるが、水木しげるの漫画が好きな理由はその「ごった煮感覚」にある。
 例えば貸本版『悪魔くん』の焼き直し『悪魔くん 千年王国』の12使徒たち。後の、水木しげるがそこまで関わっていないと思われる「コミックボンボン」版『ノストラダムス大予言』編では戦闘に特化した妖怪や悪魔にまとめられる彼らだが、こちらの十二使途は悪魔もいるにはいるのだがまるで役に立たないねずみ男みたいなキャラクター、他には名もない幽霊、軽井沢の駐在さん、別荘の管理人の老夫婦、巨大電化製品メーカーの社長、ふくろう、ほうき…まるで締まりがないこのなんでもごされの「ごった煮感覚」
 また『河童の三平』の仲間たち、カッパ、タヌキ、死神一家、小人一家、魔女、名も無き鳥…。
 水木しげる作品にはこのようななんでもかんでもごった煮しながらそれでもその全てを受け入れる土壌がある。それは彼の描くスケールの大きな「自然観」ではないだろうか。
 その作品群には緻密で巧みで美しく懐かしい背景が広がるが、自然にしても都市にしても、どこか暗い。多めのベタ、点描、トーンを使わない筆で描かれた影などのテクニックによって、闇が漫画の世界を覆っている。その闇は『リセット』で描かれていたような絶望的な恐怖ではなく、朗らかな闇。現代の都市文化が排除しようとしている、本来生活空間に存在していたはずの闇。人が眠るとき部屋を暗くして闇に溶け込むことで個を世界と一体化させ安心するように、その闇は全てを受け入れ、優しく暖かく包み込んでくれる感じがする。その緻密な背景描写によって描かれる「闇」こそが、水木しげる作品の全てを受け入れる「ごった煮感覚」を成り立たせているのではないだろうか。


 で、ようやく本題『ブンミおじさんの森』であるが、あまり分かりやすい映画とは言えない。物語に論理性は少なく、観念的で詩的で単調に描かれ眠気を催すし、『ゴダール・ソシアリスム』『アンチクライスト』のように、誰が見てもその映像が刺激的というわけでもない。
 監督がこの映画で大きく語られていると言っている「前世」に関しても、僕は額面通りの意味しか想像できず、作中で「カルマ云々」とは語っているが、この映画のどこが「前世」に主眼を置いた映画なのかはよくわからない。

 しかしその「ごった煮感覚」がとても水木しげる漫画っぽくてこの映画が妙に気に入ってしまった。

 冒頭、鬱蒼と木々が茂る薄暗い森の中で水牛とブンミを、赤く光る目の真っ黒な何かが見つめているシーンから始まる。3つの異なる生き物が画面の中できちんと共存している。そのショットに妙に安心する。その感覚は何なのだろうか?

 物語は脚の不自由なブンミの義妹が、死期が近づきつつあるブンミの見舞いにくるところからはじまる。
 そしてブンミたちをたずねてくるのは19年前に他界した妻の幽霊フェイと、猿の精霊『猿の惑星』みたいな特殊メイクをしたキャラクターの突然の登場に吹き出してしまう)となった行方不明になっていた息子。彼らの来訪に驚くブンミたちだが、すぐに彼らを受け入れて共に食卓を囲む。

 物語は論理的な段階を踏まず、古の王女が水面に映る自らの美しい幻に嫉妬し、その幻影を作り出した水の精のナマズと契るエピソードを挿入し、ブンミが見た『ラ・ジュテ』のオマージュかと思われる未来世界の夢などが展開される。

 それら不可思議な展開と、ごった煮感覚な登場人物たち、これらを一つの朗らかな雰囲気にまとめているのが冒頭の「森」にあるような自然描写である。
 その自然は水木しげるが描くそれと似て「優しい闇」が支配する。その「森の闇」に包まれることで、生死も時間も精霊や昆虫や動物までもが、なんでもかんでも、それぞれの個の主張を自然と調和・共鳴し、この映画特有の「ごった煮感覚」を作り出している。

 その「闇」は、我々を囲む世界の大きく優しい自然のエネルギーのようだ。
 今日、タイは乱開発が進み、素晴らしい自然が次々と破壊されていっているようだ。アピチャッポン・ウィーラセタクン監督はそこに警笛を鳴らしている。自然(闇)は、我々の、今と昔と前世と来世と精霊と全ての生と死を培って優しく包んでくれた温床なのだ。

 そしてブンミは、幽霊となったフェイに連れられその死を森の奥にある洞窟の中で迎えた。彼は闇に進んで呑み込まれ、「闇」と「闇」が包む全てのものと一体化していったのであろう。


 映画とは、多くの創作物とは、理屈ではなく感覚で見るべきものだ。この映画を理屈で見るのは大変危険、部分ではなく全体を俯瞰して見たとき、そこに巨大で優しく朗らかな闇の森が作品全体を覆っている、そういった自然の持つエネルギーが見えてきた。


 不満点は…難しかったと書くと負けになるから…特にございません。

 先述しましたが、闇にうごめく猿の精霊と水牛とブンミの映像の薄暗さがとても癒されます。
 節電や停電で暗闇を強制されがちな今日この頃ですが、過剰な照明に慣れがちな現代人にとって暗闇にもそういう暖かみ朗らかさがあるという事を知れる機会においてうってつけな映画です。

 高橋愛レベル。

 次回は、ちょっと変わったものをやろうかと。『マルコヴィッチの穴』『かいじゅうたちのいるところ』などのスパイク・ジョーンズの短編作品『I'm here』の感想。

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  1. 2011/03/20(日) 01:15:11|
  2. 映画ハ行
  3. | トラックバック:5
  4. | コメント:0
<<『I'M HERE』はロボット向け身体論だよ。 | ホーム | 『劇場版 マクロスF 恋離飛翼~サヨナラノツバサ~』は素晴らしき八百長だよ。>>

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  1. 2011/06/27(月) 10:13:52 |
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