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『ミスター・ノーバディ』は優しい屁理屈だよ。

ミスターノーバディ

 今回は公開から少し経ってしまいましたが、SF映画『ミスター・ノーバディ』の感想であろう。

 今回は付け焼き刃のSF用語を自信満々に羅列しますが、なにせ付け焼き刃、間違っている箇所も多いと思われます。訂正して頂けたら嬉しいです。

 見に行った映画館はヒューマントラストシネマ渋谷。今回はエレベーターもすぐに来て遅刻せずに済みました。そもそもギリギリでいくのが悪いですね。
 水曜日1000円の日でしたがそこまで流行ってない感じ。恋愛ドラマ調の予告編に騙されたのか女性客が多めでした。


概要:2009年のフランス/ドイツ/ベルギー/カナダ映画。監督・脚本は『八日目』『トト・ザ・ヒーロー』のジャコ・ヴァン・ドルマル。音楽のピエール・ヴァン・ドルマルという方は弟でしょうか。映画の完成を待たずして亡くなられたそうです。印象的な美術はシルヴィー・オリヴィエという人。
 西暦2092年。そこは、もはや人が死ぬことのない世界。そんな中、死を迎える最後の人間となった118歳の老人ニモ(少年期:トマ・バーン、青年期:トビー・レグボ、成年期と老年期:ジャレッド・レトー)に世界の注目が集まっていた。やがて彼は、記者の質問に応えて自らの過去を思い出し、語り始める。9歳のニモ。彼の前には3人の少女、赤い服のアンナ(ダイアン・クルーガー)、青い服のエリース(サラ・ポーリー)、黄色い服のジーン(リン・ダン・ファン)がいた。彼女たちそれぞれとの結婚生活に思いを馳せるニモ。そんなある日、両親の離婚という悲劇が訪れる。そして駅のプラットホームで、電車に乗り込む母(ナターシャ・リトル)について行くのか、父(リス・エヴァンス)と一緒に見送るのかという選択を迫られるニモだったが…。
"allcinema online"より抜粋)


 誰でも老いるのはイヤだし、なるべくだったら若くいたい。
 が、若さが絶対的な価値を持つ若さ信奉主義は特に昨今の我が国に強くあるようで、アメリカだと毎年夏になるとスクリーン内では40代の白人男性が世界を救っているものの、日本だと17くらいの女の子が毎年世界を救っている。『仮面ライダー』『スーパー戦隊』も年々若くなってきている。
 完成された経験豊富な大人の魅力より、未成熟で可能性のある若者の方が好かれる世の中なのかもしれない。

 が、本作は成熟どころか老年期すら通り過ぎて枯れきった老人が過去を振り返る物語であり、118年間培ってきた無数の経験や愛情が世界を救うほどのかけがえのないパワーを持っていると描いていると感じた。


(1)一年半ほどこのブログを続けて200本近くの映画感想を書いてきたけれど、人生の厳しさや暗さを語る作品は多い。
 例えば『ラブリーボーン』『プレシャス』『クロッシング(韓)』『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『ヘブンズストーリー』『瞳の奥の秘密』『ブルーバレンタイン』『メアリー&マックス』などなど皆様々な人生の厳しさを描いてきた。
 本作も暗い。ひたすら暗い。登場人物たちはことごとくうまくいかない。離婚・事故死・鬱・自殺…様々な不幸が描かれる。
 しかし映像はたまらなくハッピーだ。いたるところでThe Chordettes"Mister Sandman"が流れ、『ミックマック』のごときカラフルでキッチュな色調で彩られ、2092年の描写も近頃では珍しいユートピア的な未来ビジュアルによって構築されている。
 このハッピーな外装と、アンハッピーな内面のギャップは何を表すのだろうか?
 それらのハッピーな映像は様々なSF的考証ののち結末にて意味をなす。


(2)本作は様々なお馴染みのSFや哲学に溢れている。
 先に本作で起こるSF的展開を雑にまとめていくと、『バタフライエフェクト』でお馴染み、中国で蝶が羽ばたけばアメリカで嵐が起こり、風が吹けば桶屋が儲かる例のあれからはじまり、風の向きをちょっと変えるだけで平行時間軸が幾重にも生成され、それはエントロピーの法則で無限に広がる。その全ては実は脳が信号を送って見せたまやかしにすぎないかもしれないが、可能性がある以上矛盾する物事が同時に存在することを否定できないシュレーディンガーの猫――実在性を完全に否定できないならば可能性の数だけ全て実在する。
 このように、どこかで聞いたようなSF設定や哲学に溢れている。
(*)SFも哲学もあまり馴染みのない人が見たらチンプンカンプンになる恐れがある。まあ実際2時間強の本作をじっくり見ればちょっと複雑な『ドラえもん』くらいの難解さで理解はできると思うけれど。

 以下でもう少し詳しく解説。


(3)主人公ニモは「この世のすべてを理解したまま」生まれてしまったため、選択を迫られるとその先に起こることが瞬時にわかる。別れた両親の父についていくか、母についていくか、ダンスの相手はブルーのドレスの金髪エリースか、イエローのドレスのアジア系ジーンか、そういった選択が彼の運命を大きく枝分かれさせていき、そのような運命的な選択の場面を行ったり来たりすることで何通りもの人生を送る。
 例えばエリートサラリーマンになってプールつきの豪邸に住むこともあれば、浮浪者として駅で物乞いする人生もあるし、中にはそもそも両親が出会わなくニモが存在しなかった人生もあるし、本作の語り部となる118歳まで生きる人生もある。火星旅行をして隕石に衝突して死ぬというぶっ飛んだ人生も。

 様々な運命を経験し、またやり直し…を続けてきたニモは118歳まで生きたとき、いつの間にか"誰でもない存在(ミスター・ノーバディ)"になってしまう。『アンノウン』の主人公は過去がまっさらになってしまい"誰でもない存在"になったが、ニモは逆にあまりに数多くの過去・経験を持ちすぎているため"誰でもない存在"になっている。

 時代は2092年。世界人類は皆手術を受けることで自己再生細胞を持ち、死や老いを回避できるようになっていた。しかしニモは老いていずれ死ぬことを選び「世界最後の死者」となる。
 老いも死もないし、だから子供を作る必要もなくセックスもしない世界はそこで成長をストップさせる。しかしニモはなるべく経験をすることが必要だった。だから彼は老いを選択した。



(4)ところで"宇宙"は縦・横・高さの三次元の空間と、一次元の時間進行ベクトルから成っている。時間進行は一方通行なためビッグバン以降膨張し続ける宇宙は拡張しつづけていくことになる。エントロピーの法則だ。
 宇宙空間同様に"エントロピーの法則"で無数に膨張していく人生を経験してきたニモにも寿命というキャパシティがあったように、そこらへん難しくて理解しかねるのだが、宇宙にもキャパシティというものがあるらしい。"超ひも理論"から展開した"新サイクリック宇宙論"というやつで宇宙は拡大と縮小をすでに50回は繰り返しているとか。簡単に言えばそのキャパシティを超えたとき宇宙は縮小(イコール時間の逆流)をはじめる。その縮小開始の時期がニモのSF小説の中に登場したアンナが語るには2092年だという(全てを理解するニモが描くその小説もまた一つの可能性=実在性を否定できない=実在する)。その時、宇宙は光の速さで137億年の歴史を逆流するのだ。

 逆流の時、ニモが"経験"した無数の人生はその全てが最も幸福だった時の記憶を持ちながら過去へと逆流していく。ニモが結婚するはずだった3人の女性も皆ニモと結婚しハッピーだし、ブルーの女性はニモとも意中の彼氏とも幸せになれる。ニモは両親どちらにも付いていき、父母ともに幸せに暮らせて、かつそもそも離婚しない幸せも手にいれられる。

 映画史上ここまで壮大なハッピーエンドが存在しただろうか。全人類、全世界のみならず全時間、全平行世界においてすら皆が皆ハッピーエンドなのだ。あまりにハッピーすぎて笑い転げてしまった。
 そして先述した「ハッピーな映像」がようやくストーリー的な意味をなす。過去から未来へ向かう時間軸においては皮肉にしかならなかったハッピーな描写は、時間方向が逆流することで見事にマッチするのだ。



(5)冒頭の「老い」の問題に戻ろう。
 SFや哲学の存在意義は、さまざまな、ありえないことはない「もしかしたら」を理屈っぽく提案・実証し、その人や社会のもつ可能性をポジティブにもネガティブにも増大させることにあると思う。例えばそれは「愛」「善」「悪」「運」など、目に見えない不確かなものも実証するし、火星旅行や2092年の世界、様々に枝分かれしていった運命など、言ってしまえば、おそらくただのニモの小説内の妄想にすぎないであろう映画内のほぼ全ての事象(=「もしかしたら」)も「ありえなくはない」と肯定・実証する。
 「老い」が軽視・蔑視されがちな現代であるが、そのような「もしかしたら」の経験数で老いた人に勝てる若者はいない。その経験とお馴染みの様々なSFが組み合わさったとき、"老い"ほど価値があるものはないと、そういう点も、本作は語っているように感じた。


 他に良かった点として、この大量に説明が必要な映画で、集中力を切らさずに的確にエキサイティングに語っていく見事さ。例えばキャッチーなビジュアルの連続だったり、クラシックの的確な使い方だったり、緩急の利いた編集のテンポだったり、そういう一つ一つの要素が変化球ながらも基本を抑えた作りで安心して集中出来る。
 できるなら『2001年宇宙の旅』『ブレードランナー』『ドニーダーゴ』などの他の名作SF映画のように印象的なキービジュアルが備わったならば言うことナシだったのですが。

 愛を理屈で語りたがりな若者と、老いによって愛が失われるのではと戦々恐々としているアナタにオススメです。

 宮本笑里レベル

 次回は韓国のインディーズ映画です。タイトルがやたら気になる『昼間から呑む』の感想まっこり。


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