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『ブラック・スワン』は終始バレエしか描いていないよ。

blackswan
 ごめんなさい。『名探偵コナン 沈黙の15分』の感想を書くと言って、いまだに見ていません。その間に4本も見てしまったので、先にそちらを消化します。

 てなわけで今回は久々の話題作『ブラック・スワン』の感想。
 観に行った映画館はTOHOシネマズ六本木ヒルズ。この手の映画はここは混み合いますね。オバさんが多めでしたが、バレエ映画として観に行ってるのかな。で、若者はエログロ目当てで観に行ってるのかと。


概要:2010年のアメリカ映画。監督は『π』『レクイエム・フォー・ドリーム』『レスラー』のダーレン・アロノフスキー。音楽はクリント・マンセル。
 ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は、元ダンサーの母親(バーバラ・ハーシー)の期待を一身に背負い、バレエに全てを捧げて厳しいレッスンに励む日々。そんな彼女に、バレエ人生最大のチャンスが訪れる。長年バレエ団の象徴的存在だったプリマ・バレリーナ、ベス(ウィノナ・ライダー)の引退を受け、新作の『白鳥の湖』のプリマにニナが抜擢されたのだ。しかし、白鳥の湖では純真な白鳥役と同時に、奔放で邪悪な黒鳥役も演じなければならない。優等生タイプのニナにとって、魔性の黒鳥を踊れるかが大きな試練として立ちはだかる。対照的に、官能的にして大胆不敵な踊りで、芸術監督のルロイ(ヴァンサン・カッセル)に理想的な黒鳥と言わしめた新人ダンサーのリリー(ミラ・クニス)。彼女の台頭によって、不安と焦りが極限まで高まってしまうニナだったが…。
("allcinema online"より抜粋)


 歌舞伎や落語などはそもそも庶民の間で生まれた下世話でパンキッシュな文化だったはずだけど、いつの間にやら「古典芸能」というお墨付きをいただいちゃってから、最近は格式のある立派で融通の効かないものになってしまいがちである。まあそれはそれで味のあるいいものなんだろうけれど、それゆえに現代性を失ってしまい「退屈」に陥ってしまう危険性は高い。なので新作を作っていこうという動きには大賛成だし、刺激的な働きなんだと思う。

 『エンジェル・ウォーズ』が地味でシンプルな話を様々なオタク的演出で盛り上げまくったように、本作『ブラック・スワン』は同じ古典芸能であるクラシックバレエを、ホラーやサスペンス的な演出を駆使し、如何に現代に生々しく『白鳥の湖』が上演された当時のように再現するかに腐心した作品であり、それによって伝えられるのは驚異的に磨きぬかれた身体によって表現される可視的な身体を超えた魂の表現であると思う。


(1)バレエ映画としての『ブラック・スワン』について考えたい。
 クラシックバレエにはまるで詳しくないのでいろいろ間違いもあるかもしれないが、これも"古典芸能"の一種。歌舞伎や落語と違うのはそれらが庶民からうまれたサブカルチャーなのに対し、こちらは貴族文化として発展したメインカルチャーであるという点。ただし『白鳥の湖』をベースにした本作がそうであるように、まあ案外下世話なことを言っていたり官能を追求していたりするのは落語や歌舞伎と通じるものがあるけれど。
 で、『ブラック・スワン』の劇中でトムとジェリーがニナに言う「バレエって退屈だろ?」と言うのは、先述した「古典芸能」特有の格式のある立派で融通の効かないものになってしまいがちな点にある。
 ニナはそれを必死に否定するのだが、ニナ自身が「格式高い古典芸能」の呪縛に取り憑かれ、バレエを色気のない退屈なものにしている原因でもある。
 本作で白鳥を演じるニナは、かつてスターになる夢を挫折した母親の妄念とでもいうべき教育によって"完璧に彫刻された美しさ"を持つ。
 マッチ棒のような手足についたブラッシュアップされた筋肉(バレエファンから言われるとまだまだ筋肉が足りないそうですが)と、オードリー・ヘプバーンを想起させる美しい小顔(エラの張り方も似ている)。
 しかしながら振付師ルロイに「白鳥だけなら素晴らしい」と言われたように、人間の内面にある生々しい欲望の象徴である"黒鳥"を演じるには、肩肘を張りすぎて色気が足りないのだ。
 それは彼女が母親によって完璧な「型」にはめ込まれたバレエしか演じられないからだ。

 そして"完璧に作り込まれた彼女"を撮す映像はシャープに研ぎ澄まされてゴツゴツザラザラした印象を受ける。息づかいや大気の動きを表現する不穏なサウンドエフェクトも乾いて即物的だ。


(2)続いて本作の「内面」と「外面」の関係をバレエを踏まえて考えてみたい。
 バレエというのは「垂直の舞踏」であると聞いたことがある。バレエといえば"つま先立ち"、つま先から頭の先までピンと張り詰めて上へ上へと目指すベクトルを持つ(これは「摺り足」が基本で横へ横へというベクトルを持つ日本舞踊と対称的である)。
 垂直に高く高く上がっていく動作は美しいが、他の垂直線(他者)と混じり合うことはなく延々と平行線をたどる。

 「黒鳥」を演じるために自身の内に秘める「欲望」と向き合うようになるニナだが、"垂直"のベクトルを持つ彼女に他者性はない。ただひたすら自分と戦うだけだ。
 ニナにとって母親は自分の中の欲望を閉じ込めた箱の鍵を守る存在にすぎないし、才能と色気と自分に似た容姿を持つリリーはバレエ漫画でよくあるようなライバルではなく自分の中にいる欲望をあらわすキャラクターとされてしまう。彼女にとって他者は他者でなく自己を構成する一部なのだ(※1)
 またニナはルロイに恋をしているようだが、そこに少女的なロマンスはなく「ヤリたいか否か」といった一人称性を脱していない。
 このように彼女の"黒鳥"への役作りは他者と混じり合う事がないゆえに、自己の内へ内へと向かっていく。


 そして、内なる変化は外面を変化させる。
 母親によって型に押し込められていたことにより精神も肉体もリンクするかのごとく美しいが堅くるしいものになっていたように、ストイックなまでに自己の内の欲望を見つめすぎたニナの肉体はその精神と呼応するようにある"変化"をはじめる。それはしやかで官能的、欲望にまみれた肉感的な瞳を持つ一羽の"黒鳥"であった。

 以上のような身の内にある、欲望にまみれた背徳性を葛藤の末に認めて、ニナは欲望にまみれた黒鳥となり、見事な舞を披露する。(※2)

(※1)本作をホラー映画と捉える向きもあるが、このような本作の一人称を抜け出ないナルシスティックなホラー性もバレエ的なのだ。主観的な恐怖が客観すら覆うのは楳図かずお作品のようだと、ライムスター宇多丸氏もおっしゃってました。

(※2)この変化は実際にお嬢様女優としてひと皮剥けられなかったナタリー・ポートマンがこのような映画に体当たりで挑戦するという実際のキャリアとリンクして実に見応えがある。アロノフスキーの前作『レスラー』がミッキー・ロークのキャリアとリンクしていたのと同様だ。



(3)最後に本作が描いたある種の「感動」について考えたい。
 上記で語った"肉体と精神のリンク"に反するように、キリスト教的な考えでは即物的な身体は、有機的な精神と分け隔てられたものとして捉えられている。
 しかしながらバレエによってダンサーや振付師たちがその肉体で目指すものは身体性を超越した精神の表現である。ここにキリスト教国家で発展したバレエという文化の矛盾点がある。

 そして『白鳥の湖』が古典ではなかったとき(『白鳥の湖』がチャイコフスキーによって作曲され演じられたのは1877年)、観客たちがその舞台に感じたのは、何だったのかが、本作の終盤で少し伝わるかもしれない。

 前半と比べ妄想とも現実ともとれるようなファジーな映像と、肉感的な生々しいサウンドエフェクトで表現されるその演舞は刺激的で官能的で美しく気持ちがいい。それは、当時のバレエで感じられていたと思われる、魂とは区別されていたはずの身体が極限まで磨き抜かれたときに表現できる魂の震えであったと思う。

 バレエファンからは作りが甘いと言われてもいるそうですし、バレエの魅力がまるで語られていないという意見も多いそうですが、バレエに対する我々門外漢の抱く不気味な雰囲気はうまく描かれていて、本作の効果でバレエのチケットが売れているんだとか。なによりのことだと思う。


 以上、『ブラック・スワン』はバレエならではの古典性を逆手にとり、一方でバレエ特有の身体性を活かすことで、世にも怪奇で世にも美しい『白鳥の湖』を奏で、その語り尽くされた古典芸能を現代の世に蘇らしていると感じた。


 本作を非難する声の一つに「作りが単純すぎて先がよめる」というのがあるそうですが、シンプルすぎる作りゆえに、ここまでパワーを持たせられたのかとも思います。

 まあオススメしなくても皆さん見に行ってらっしゃることでしょう。
 あ、ナタリー・ポートマンのあんなシーンやこんなシーンがいろいろと話題になっていますが、個人的にいちばんエロく感じたのはパンツ一丁になるシーンでした。
 新垣結衣レベル。

 次回は、ごめんなさい、ついつい見にいってしまいました『これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫』の感想なのだ。タリラリラン。
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テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

  1. 2011/05/26(木) 11:21:32|
  2. 映画ハ行
  3. | トラックバック:12
  4. | コメント:4
<<『これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫』はむしろ赤塚不二夫のことを描いているのだ。 | ホーム | 『昼間から呑む』で頭ハイサワーだよ。>>

コメント

面白い記事ありがとうございます

バレエの観点からの掘り下げ方がすごいですね!
勉強になったと共に感動しました。
  1. 2011/05/27(金) 12:15:51 |
  2. URL |
  3. InTheLapOfTheGods #NKh9J5S.
  4. [ 編集 ]

>InTheLapOfTheGodsさま

はじめまして。嬉しいコメントありがとうございます。

先に見た人たちが口を揃えて「あれはバレエ映画ではない」みたいな意見を言っていて、僕もそんなつもりで見に行ったら案外バレエ映画だったので、そういう視点に留意して感想を書いてみました。

またぜひ遊びにきてくださいね。
  1. 2011/05/27(金) 19:54:08 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

落語

「お前はご隠居様の演技は完璧だが、はっつあんや熊さんの演技は完璧じゃない。そんな事じゃ今度の新春大歌舞伎のオオトリはまかせられねえ」みたいな話ですよね。
  1. 2011/05/28(土) 23:55:59 |
  2. URL |
  3. ふじき78 #rOBHfPzg
  4. [ 編集 ]

>ふじきさま

 ん?
 ええ!?
 まあ、そんな話ですね。

 ええ!?
  1. 2011/05/30(月) 01:57:10 |
  2. URL |
  3. かろプッチ #-
  4. [ 編集 ]

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