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『マイ・バック・ページ』こそ「これでいいのだ!!」だよ。

マイ・バック・ページ

 今回は山下敦弘監督待望の最新作『マイ・バック・ページ』の感想です。
 観に行った映画館は吉祥寺バウスシアター。いちばん最後の回の鑑賞だったので公開2日目でしたがけっこう空いていました。日曜の夜に地元で見る映画はいいですね。
 客層は若い人が多め、中年カップルもいくらか。


概要:2011年の日本映画。川本三郎の原作を『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』『天然コケッコー』『リンダリンダリンダ』などの山下敦弘が監督して映画化。脚本は他の山下作品にも名を連ねる向井康介、音楽はクラムボンのミトと『婚前特急』のきだしゅんすけ、主題歌は真心ブラザーズと奥田民生によるボブ・ディランのカバー。
 東大安田講堂事件が起きた1969年、理想を胸に大手新聞社に入社し週刊誌編集記者として働いていた沢田(妻夫木聡)は、やがて先輩記者の中平(古舘寛治)とともに活動家たちに接触、彼らの日々に密着していく。その中で沢田は“武器を奪取し、4月に行動を起こす”と語る若者、梅山(松山ケンイチ)と巡り会う。その決起宣言には疑念を持ちながらも、不思議と親近感を抱くようになり、取材を進めるうち次第に梅山との交流を深めていく沢田だったが…。
("allcinema online"より抜粋)


 人は生活上の必然性とは無縁の無意味なものに熱中するしそれにムキになるし、その一方でどこかそれに本腰を入れる勇気を持てないでグダグダもしてしまう。
 特に若い時代はそうだ。僕は十代~二十代前半のころ映画や漫画を作ることに熱中していた。それにまつわる嫌な思い出も多いし、いま思えばあまり真面目な態度ではないときもあって「もっと真剣にやってれば…」とか「他の実質的なことやってれば…」なんて後悔もないわけではない。でもやっぱりあの頃の自分を否定されるととても嫌な気持ちになる。

 今この時代に昭和40年代の学生運動を振り返ると、特にその時代を経験していない僕のような世代は、「大学や山荘に立てこもって本当に革命ができると思っていたの?」とか、「革命が成功してどうするつもりだったの?」とか思ってしまい、悪いけどどうしてもアホくさく見えてしまう。

 本作『マイ・バック・ページ』はそんな地に足がついていない熱狂をクールに眺め、それでいてそのフワフワした熱狂をなんとか意味づけようとする気持ちを肯定する物語だったと思う。


(1)現状の日本人監督の中で誰がいちばん好きかと聞かれて山下敦弘監督の名前を出す人は多いだろう。
 『どんてん生活』からこの最新作までを並べると、若者たちが熱狂しているもの(恋愛、自主制作映画、バンド活動)や気ままな生活などを地に足のつかないぶらぶらした虚構であるとクールに暴き、それでいてその虚構性の中にキラリと光る暖かさをちょっとだけロマンチックにさらりと語るという点で共通しており、その手腕は和製アキ・カウリスマキのようだと思う。
 で、この『マイ・バック・ページ』は同様のテーマをより明確化して語っている。(※)

(※)ぶらぶらした虚構の生活をおくる者は"ダメ人間"として描かれることが多いが、山下監督の描くダメ人間と言えば山本浩司と山本剛史。最近の山下作品にはあまり登場しなかったが、本作は久しぶりにあの二人が出演し、とっておきのダメ人間っぷりを披露している(あの山本浩司の「下手な演技」の演技の素晴らしさ!)。そういう点でも山下監督のこのテーマに対しての総決算なのではないかという気がしてくる。


(2)本作の二人の主人公はともにまるで地に足がついていない。
 例えば冒頭妻夫木聡演じる沢田がフーテンの生活を取材するべく、フーテンのフリをして彼らと仲良くするが、それは偽りの生活、地に足がついているはずなどなく、ただ彼らの生活を客観的に眺めているだけである。
 ベトナム戦争にも学生運動にも参加できない彼は出版社に就職するが、そこでもぼんやりと映画を眺めているような感覚しかない。先輩の中平からは「お前にはベトナムにでもなんでも行ってやろうっていう覚悟がないんだよ」とたしなめられる。

 松山ケンイチ演じる梅山はもっとひどい。なんとなくみんながやっている学生運動になんとなく感化されて参加するが、まあ中身のない薄っぺらな意志しか持っていないため周囲にはほとんど相手されていない。
 論争ではすぐ負けてしまうし、屁理屈ばかりこねて決して動かない。
 例えば形だけはそれっぽいことを言って議論(というか"理屈遊び")をして、中身が何も伴っていない上に、組織を結成して結局は何がしたいのかわからないことを指摘されると「…そうか、君は敵だな!?」と暴力的に投げ出したり、他人の組織の活動予定を自分の活動としてマスコミに語り、それをとがめられたら「プロバガンダだ、こういう行動をしているということをマスコミを通じて伝えたことにより地下に眠っている志士たちを決起させたのだ」と言ってみたり、中身の伴わないまま活動することになり不安に襲われる少女重子(石橋杏奈)をなだめる言葉も行動も解らず「大丈夫、大丈夫、うん、大丈夫、大丈夫」とだけ言ってそのままとりあえずセックスになだれ込む。
 最終的に、警察に殺人の指示を出したことについて問われても「けれども指示を出せと指示を出したのは僕ではありません」とものすごい責任転換をする。

 そして梅山は沢田の覚悟のなさを「優しさ」ととらえ、沢田は梅山の中身のなさを「若き情熱」ととらえ、二人の間にはささやかな友情が芽生える。

 本作のBGMは低音で鳴り響くウッドベースのジャズ。まるでフワフワした彼らとはかけ離れたところでしっかり地に足がついた現実があるのだよと言わんばかりの低音だ。
 そして彼らを映す客観性の強いクールな俯瞰映像。前半の学生運動の騒乱のシーンは遠くから長回しで撮影することでなんだか間抜けなお祭りの映像のようだ。


(3)しかしながら世界は憎たらしいくらいニヒル、フワフワと現実味のない生活をおくる彼らにも容赦なくシビアな現実は訪れる

 空絵事でしかなかった恐ろしい武器奪取計画を、まるで現実という見えない力によって流されるように実行せざるを得なくなった梅山は、部下に自衛隊駐屯地に潜りこませ(自分では実行しないというのがミソ)、その杜撰すぎる計画ゆえにまるで関係ない自衛隊員を殺害してしまう。その恐怖たるや暴力の恐ろしさや痛さを漫画や映画でしか知らずついうっかり無意味に殺してしまった『ヒーローショー』を彷彿とさせる恐ろしさ。
 しかし沢田は彼の犯罪を助長したにも関わらず、彼を信用しようとし、たんなる殺人犯ではなく"思想犯"だと言い張る。
 だが薄っぺらな梅山は単なる「革命の英雄もどき」として嘲笑されながら間抜けな殺人犯とされる。

 そして沢田は、この物語の中でいちばん悲劇的な目にあったはずの死んだ自衛隊員の名前すら知らず、またそれでも梅山を信じていたい自分を肯定しようとする。しかし可愛らしくてちょっと気に入っていた倉田眞子(忽那汐里)に「運動ってよくわからないけれど…賛成か反対かと言われたらなんとなく賛成したくなるんだけど、でもなんかこの事件は違う、無関係な人が死んですごく嫌な感じがする」と言われ、今まで自分が本物だと思っていたことが全て薄っぺらなものであることを知る。
 そして彼が、地に足がついた世界とがっぷりよつに向き合える仕事だと思っていたマスコミという仕事も、なんら意味などないあやふやなものに無理矢理に意味を持たせるだけの仕事だと知る。
 例えば大物左翼・前橋(山内圭哉)は「運動なんて男の道楽や」と言っていたし、梅山も「ニュースになれば俺は思想犯になれるのに」と言っていた。

 このように本作はその後半でニヒリスティックに世のナンセンスさを語る。

 事件の後、妻夫木聡は"映画ライター"の仕事をしていた。それは無意味な絵の連なりに意味を与える仕事だ。


(4)タイトル『マイ・バック・ページ』の意味を考えてみたい。

 沢田や梅山の思い出や青春はロクなものではなかった。沢田は過去を振り返って、すべてを無意味と否定してしまい、ただただニヒルにすごす生活をすごしていた。
 本作で描かれる一歩引いた映像も、うわっついた物語と落差のある低音で鳴り響く音楽も、山下敦弘らしいハズシを入れたギャグも、すべてがニヒルであった。そして沢田は、地にその足がついていないことを表すように、現実に感情移入できず、それゆえに涙を流せない男だった。

 彼が涙を流すのは最後。久々にあった友人(かつてフーテンの変装をして潜入取材をしていた際に一緒にいた男)の「でもさ~いろいろあったけど、なんか楽しかったよな~」というなんてことないセリフを聞いた時であった。
 彼はそれを聞いたとき思いがけずに涙が止まらなくなってしまう。

 思えば映画とは異なり、現実に生活していて意味のしっかりしたものなど皆無なのかもしれない。だから映画ではボロボロ泣けるくせに現実に涙を流すことは困難だったりするのだろう。しかしそれでもなんとかそれを意味づけようと苦心する。
 しかしながら時が経ち、細かいことを忘れて過去を振り返ったとき(マイ・バック・ページ)、無邪気に「あの頃は楽しかったなあ」と思えることができたならば、ただそれだけで過去は有意義なことなのかもしれない。

 沢田はそうして過去に意味を見いだし、ようやく泣けたのだ。

 僕もかつて映画だの漫画だのを作っていたころ、いい加減でもあったし、ノイローゼになるくらい嫌なこともあったし、その思い出自体に蓋をしてやりたいこともあった。でも細かいディテールを忘れて今あの頃を思い出すとき、無邪気に「楽しかったなあ」と言える。妻夫木聡のもやもやを晴らすような涙を見て、僕もつられてなんだか泣けてしまった。


 以上、『マイ・バック・ページ』は世の中の無意味さをさんざんニヒルに描きながら、それでもそれをそこまで無駄なものでもないと語っている、間抜けで冷笑的で不細工で貧乏くさいけれどそれでも一陣の爽やかな風が吹くような作品であったと思う。

 作る作品作る作品このクオリティを保っていられる山下敦弘監督、まだ34歳だそうでまったくどうなってしまうんだろうとブルッときます。前回の『ダンシング・チャップリン』と過去や今に対しての感覚が正反対で、二作品を見比べると面白いです。あと『これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫』の心底の天然ナンセンスさとかと合わせてみるのもいいかも。超絶オススメでございます。

 仲里依紗レベル。
 去年の1位アイドルが登場で、そろそろアイドルの弾数が減ってきましたが、はたしてどうなることやら。

 次回はみんなー!オシャレ映画だよー!!『ゲンスブールと女たち』の感想です。

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  1. 2011/06/06(月) 00:06:06|
  2. 映画マ行
  3. | トラックバック:7
  4. | コメント:0
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