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『アジャストメント』ヌルいニーチェだよ。

アジャストメント
 またブログほったらかしていた。ごめんなさい。
 今回はなんとなくお手軽に楽しめそうなハリウッド映画『アジャストメント』の感想です。

 観に行った映画館はTOHOシネマズ六本木ヒルズ。観に行った時期が少し遅かったのと、作品が地味目なのもあり、そこまで混んでいませんでした。客層は中高年の一人客が多めといった感じ。


概要:2011年のアメリカ映画。フィリップ・K・ディックの原作短編小説をサスペンスSFアクション風味に映画化。監督・脚本・製作は『オーシャンズ12』や『ボーン・アルティメイタム』などの脚本家ジョージ・ノルフィ。音楽はトーマス・ニューマン。
 将来を嘱望されていた若手政治家デヴィッド(マット・デイモン)はある日、美しい女性、エリース(エミリー・ブラント)と出会い心惹かれる。しかし、彼女との仲が深まり始めた矢先、彼は突如現われた黒ずくめの男たちに拉致されてしまう。彼らは“アジャストメント・ビューロー(運命調整局)”という謎の組織に所属し、人間たちがあらかじめ決められた運命から逸脱しないよう、超人的な能力で監視・調整を行う集団だった。そしてデヴィッドに、本来出会う運命にはなかったエリースとは今後決して再会しないよう強引に従わせようとするのだったが…。
("allcinema online"より抜粋)


 まず結論から言うと本作は大したことない映画です。もう全然大したことない映画です。
 ですが、さすがフィリップ・K・ディック原作というべきか、案外「運命」という概念に対する洞察の余地を残していていなくもない。


(1)先に不満点をあげようと思うのですが、先日の『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』で大体言われちゃったので、そこはほぼ似たようなことを簡単に並べていきますね。

 まず大前提として物語のリアリティとダイナミズムとフェアさがない。

a.リアリティが無い点について。
 本作は平々凡々とした日常にSFファンタジー的な概念が殴り込みをかけてくるような物語なのだが、その手の現実にはあり得ない物語を作る鉄則として"嘘臭くならない物語作り"が必要なのだけど、これがまあ嘘臭い。
 例えば主人公デヴィッドは、「実は君たちの運命は我々によって調整されているのだよ」といった運命調整局の伝えた衝撃の真実をすんなり受け入れて三年ものうのうと暮らしている。
 また物語の軸となる例えばヒロインのエリースとの恋も共感しにくい嘘くささを持つ。冒頭男子トイレに潜入しているエリースのエキセントリックさはまあ映画的ハッタリで許せるけど、デヴィッドはそんな男子トイレに忍び込んでいたエリースに対してほとんど警戒もしないで(有望な政治家なのに!)その場でキスしてしまうほど入れ込んだり、その後バスでの再会でデヴィッドの鳴り響くスマートフォンを勝手にコーヒーの中にドボンと捨てショートさせる非常識っぷりとか、自分の幸せのために結婚式当日に何も悪さをしていない婚約者を無断で置き去りにするとか、リアリティのズレっぷりが、ちょっと不気味に感じるほどズレていて、どうも彼らの恋を応援できない。


b.物語のダイナミズムが無い点について。
 例えば「運命調整局」の男たち、人の運命をアジャスト(調整)する超然的な存在である彼らだが、疲労のためうたた寝してミッション失敗するとか、一事が万事やたらめったらうっかりさんで、全然神がかった存在に思えない。
 あと超然的な彼らが何ができて何ができないのか明確にルール説明されていないから、いきなり「青のドアは移動出来る」だの「雨の日は行動出来ない」などどんどん知らない設定が飛び出してきていまいち話にのめり込めない。
 また運命調整局の仕事っぷりもなんだかしょうもなく、やれ主人公たちにキスをさせるなだとか、やれメールで嘘をつけだとか、妙にショボい。ショボいならショボいで『ミスター・ノーバディ』のようにバタフライ・エフェクト的な、そのショボい変更がやがて小川を伝って大河の流れを変えるような巨大なうねり(この物語の場合デヴィッドが将来大統領になり世界平和を導くこと)に繋がっていくみたいな展開なら良かったわけだけど、キスをさせないことで主人公は恋愛にのめり込むことなく大統領の道を邁進するんだとかなんだか因果関係のドラマ性が低い。
 あと鳴り物入りで登場した運命を暴力的に変更させるのを得意とするという"ハンマー"ことトンプソン氏(テレンス・スタンプ)のやることも、デヴィッドに嘘を織りませながら「あの女はやめておけ」と説得するだけっていうショボさ。


c.フェアさが無い点について。
 先述した「何ができて何ができないのかわからない」にも通じるのですが、運命調整局が、さっきまで「デヴィッドとエリースをキスさせちゃダメだ!」って言っていたのに次のシークエンスでは「エリースのダンスを見せちゃダメだ!」になって、それで最後にはまたキスさせちゃダメだってルールになって、また終盤しばらくしたら「キスさせちゃダメだ!」になっていたり(ていうかキス以前に二人はセックスしていたり)、どうも「このシークエンスでは何が困難で、その困難を克服することで何が得られるか」といったルール説明を後出しじゃんけん的にぽんぽん出してくるのがフェアではなく、よって観ている方もまるでハラハラできないし、なんか真面目に見る気が失せてしまう。

 他にもなんか安っぽいBGMとか、ださいカメラワークとか、「強固な運命」vs「ごく個人的な恋愛感情」といったせっかく燃えるストーリー展開がなんだか後半有耶無耶になってしまう点とか不満はたくさんありますが、まあ文句だけになっちゃうのもアレなんで、不満はここまで。


(2)でも本作が捨てがたい映画なのは「運命」というテーマに対して観客にちょっとした洞察を投げかけているからだ。

 「運命」というのは人にとって矛盾した概念である。
 運命は人の自由意志を限定するカミサマのパワーであり、その点において人は運命に恐れおののく。が、一方で運命とはカミサマからのプレゼント、その偶然なる幸運に人は喜び感謝する。
 本作でもデヴィッドは自由意志を守るべく運命調整局に立ち向かうが、一方でエリースとの偶然の出会い(*)を求める。
(*)劇中の説明によると、エリースとの出会いは運命調整局が定めた運命とは違うものだが、そもそも彼らは運命でくっつく定めであった、しかし無理矢理に二人は出会わないと調整した結果、その名残で二人は引かれあうとある。先述した「強固な運命」vs「ごく個人的な恋愛感情」という構図が有耶無耶になっているというのはここに問題があるのだが、ここは好意的に運命に対するジレンマの描写ととりたい。

 ところでこの映画、先述したようにいささかデタラメな作品ではあるのだが、そのなかにあってセリフだけは妙に気が効いていたりする。例えば冒頭の男子トイレでのデヴィッドとエリースとのやりとりとか、幼なじみの悪友チャーリー(マイケル・ケリー)との戯れあいのような皮肉合戦とか、ちょっと粋である。
 観客は最初セリフがうまい作品だな程度に感じるが、実はこの世界は帽子の男たちによって調整された世界だと知り、その芝居がかった洒落たセリフに戦慄する。
 これは自分の意志で発している言葉なのか、それとも言わされているシナリオ上のセリフなのか。フィリップ・K・ディックが得意とする"現実感の揺らぎ"だ。

 そしてデヴィッドは運命調整局が定めた「運命」に抗いエリースと結びつくのだが、実はそれすら更新された運命の掌の上であるという結末が訪れる。我々は何をやってもお釈迦様の手のひらの上ではしゃぎまわる孫悟空なのかもしれない。

 だが、運命を決定しているという、「運命調整局」の上司、「議長」とは何者なのだろうか。「議長」は最後まで登場しない。調整局の一人ハリー(アンソニー・マッキー)は「議長は特定の人物ではなくありふれた存在だ」と、それだけをいう。(劇中では名言されないが、運命調整局員は天使だし、「議長」は神を想像させる)
 何故彼は姿を表さないのか。何故彼は特定の姿を持たないのか。
 「ありふれた存在」――もしかしたら「議長」とは、我々のことかもしれない。

 全知全能の神によって完璧に構築された運命のなか、我々の自由意志はどこにあるのか悩んだ中世ヨーロッパにおいてニーチェは「神は死んだ」と言い、運命からの人間の解放をうたった。人は神を作り上げたように、運命も作り上げられるのだ。

 主人公が定められた運命に逆らって新たに運命を構築したように、運命を新たに決定して作っていくのは我々の役目だと、この作品は語っているように見える。そういえばデヴイッドは民主主義の政治家であった。


 以上、本作はお世辞にもいい映画とは言えなかったが、「運命に対してどうするべきか、誰が決定しているのか」というテーマに、真摯な態度とちょっとした深い洞察の余地があったりして、決してつまらない作品とは言えなかった。

 どんな映画でもつまらなかったの一言で片付けちゃ駄目だなということの好例のような作品でした。それ相応の楽しみ方がきちんとある。まぁテンポもよく、頭でっかちに考えなければそこそこ楽しめる映画だとは思います。

 内田眞由美レベル

 次回は『乱暴と待機』の冨永昌敬によるドキュメンタリー映画『アトムの足音が聞こえる』の感想です。
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テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

  1. 2011/06/16(木) 12:32:46|
  2. 映画ア行
  3. | トラックバック:10
  4. | コメント:2
<<『アトムの足音が聞こえる』は希代の大嘘つきだよ。 | ホーム | 『処刑剣 14 BLADES』は多分内容をすぐ忘れるよ。>>

コメント

この感想もつまらなかったです
  1. 2011/08/13(土) 22:48:29 |
  2. URL |
  3. やはり #-
  4. [ 編集 ]

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
  1. 2011/10/23(日) 02:42:36 |
  2. |
  3. #
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