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『アトムの足音が聞こえる』は希代の大嘘つきだよ。

atom

 今回は『乱暴と待機』などの冨永昌敬監督のドキュメンタリー作品『アトムの足音が聞こえる』の感想です。

 観に行った映画館はユーロスペース。公開から少し経っているのもあり、レイトショーというのもありそこまで混んではいませんでした。6人くらい。なんか話からするとアニメ業界っぽい30代くらいの男性が何人かいました。


概要:2011年の日本映画。『パビリオン山椒魚』『パンドラの匣』『乱暴と待機』の監督が、伝説の音響デザイナー、大野松雄の偉大な足跡を振り返るドキュメンタリー。手塚治虫による日本初のTVアニメ「鉄腕アトム」で、あの愛らしいアトムの足音を生み出し、後の音響効果の世界に多大な影響を与えた音の神様、大野松雄の音作りの秘密に迫るとともに、彼の知られざる波瀾の人生を追っていく。("allcinema online"より抜粋)


 本作から漂う"心地よい嘘の匂い"はなんだろうか。
 例えば『ファーゴ』『松ヶ根乱射事件』の冒頭に示された「この物語は実話である」という真っ赤な嘘を気づいたときにその制作者と共犯関係になったように感じることでの喜びとはまた違う。本作は一応事実を記録するという前提の上に成り立っているドキュメンタリー映画であるからだ。
 そのような本作独特の「嘘」について考えてみたい。


(1)本作はその前半を音響デザイナーとはどのような仕事をするのか、そして音響デザイナーのパイオニア的存在大野松雄とはどのような人物かを、日本アニメーション黎明期から活躍してきた音響デザイナーやアニメーション関係者の話を交えながら解説していき、後半になってようやく大野松雄が登場し、彼の現在を描くという構造となっている。

 前半で語られる音響デザイナーとは"嘘をつく仕事"である。
 いや、嘘を嘘でもって本当っぽくする仕事だ。
 創作物において「リアル」と「リアリティ」は違う。アニメでウグイスの鳴き声を表現したいとき、実際のウグイス(リアル)の鳴き声を採集して鳴らしてもなんだか不格好である。本作によるとウグイスの鳴き声は50円玉を笛のように使って鳴らす。それは実際のウグイスの鳴き声とは微妙に違うが、そのディフォルメされた鳴き声が、人が描いた絵という嘘だけで構成されるアニメの世界では実在性を帯びて鳴り響く。このように嘘の世界を嘘をもって援護射撃し、いつのまにか実在感を与えているのが音響デザイナーの仕事と言える。

 またもっとわかりやすい例として本作のタイトルになっている「足音」について考えたい。鉄腕アトムやカツオやタラちゃんは存在しない。あんな時代錯誤で顔の大きな年をとらない子供たちは実際にいたら化け物だ。
 彼らは歩くとき「ひょっこひょっこ」「きょろろろん」と可愛く鳴ったり必要以上にドタバタ鳴る。そんな音は現実では決して鳴らない。鳴ってたらうるさくてしょうがないし、なんか気持ちワルい。
しかし彼ら”嘘の存在”はその嘘八百な音によって実在性を増す。
 タラちゃんがリアルな足音で歩いていたら不自然であるが、あの珍妙な可愛らしい音で歩くから親しみやすい僕らの隣人タラちゃんが実在性を持ってくるのだ。


(2)大野松雄はもっと嘘くさい存在であった。
 前半「恐い」だの「偏屈」だのと言われ、どんなに厳しそうな頑固オヤジが出てくるのかと思えば、登場した大野松雄は少年のような目をした愛嬌のある小さなおじいちゃんであった。

 彼は人里離れたという言い方が適切な山奥にある精神障害者用の施設で彼らと演劇をしていた。

 現実とは距離をおいたような山奥にて、現代社会と適合できない精神障害者たちと、まるで聴いたことのないような摩訶不思議なサウンドを奏でている図は超現実的とでも言うべきか、並々ならぬ存在感をもって観客の度肝を抜く。

 大野は「(精神障害者たちとの関係において)影響をあたえあう関係」と言っている。また「プロの仕事とはいい加減な仕事をいい加減と悟られないこと、いい加減にやった仕事が案外面白い結果を出すこともある」「いい加減にイメージできるか、できないか。厳密にイメージしちゃうと、狂ったらアウトだから」なんて言っている。
 およそ計画性のない"いい加減な踊り"(?)を舞う精神障害者たちは、大野の、そして観客の想像力を刺激させる。このことにより大野のエキセントリックな音は冴え渡り社会から不適合とされている精神障害者たちを圧倒的な実在感を持つ巨大な存在として演出しているのだ。

 彼はアトムの足音を超え、嘘みたいな場所で嘘みたい音を奏で嘘みたいだけれど本当以上に本当くさい空間を作り出していたのだ。


(3)大野は「いちど掴んでしまったら、その音は、この世に存在する音になってしまう。存在する音に、僕は興味がない」と言っている。彼は嘘しか吐く気はないのだ。

 大野松雄を描いたこの映画はドキュメンタリーなのに大野松雄のようになんだか嘘っぽい。

 例えば『市民ケーン』のごとく周縁からなぞっていきながら次第に核心に迫っていくやたら物語じみた構成。また例えば元ピチカート・ファイヴ野宮真貴の機械的なトーンやリズムの声と、ピチカート・ファイヴのような洗練されすぎた言葉使い(「あなたは知ってる」「あなたは知らない」ではじまるナレーションはドキドキする)。また例えば冨永昌敬監督らしい洗練されたビジュアルスケープや編集。

 これらの要素がドキュメンタリーを嘘っぽく見えるように飾っている。


(4)まとめ。
 創作という行為は総じて嘘をつく行為である。絵だって音楽だって舞踏だってそう。嘘をもって現実以上の何かを表現している。それはドキュメンタリーにしたってそうだ。人の手がある程度関わっている以上、真実ではなく、やはり嘘なのだ。
 本作に登場する大野松雄の、そして彼に影響をうけた音響デザイナーたちやこの映画自体の「嘘」という行いは、最も原始的で基本的で何より大事な芸術活動であるのだと思う。

 僕が本作から漂う嘘っぽい空気を心地よく思ったのは、「嘘をつきたい」という芸術の最も根源的な衝動に改めて触れたからなのかもしれない。

 以上、本作は音響デザイナー大野松雄を描いて、嘘をつくという当たり前すぎて忘れがちだが最も根源的な芸術活動を改めて描いた作品だと感じた。


 なかなか見応えがある作品です。「嘘」という原始的な行ないに強く刺激を受けました。

 にわみきほレベル。

 次回は話題作です。僕もずっと楽しみにしておりました『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の感想です。
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テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

  1. 2011/06/16(木) 13:55:44|
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アトムの足音が聞こえる

日本初のテレビアニメ、手塚治虫原作の『鉄腕アトム』の音響デザイナー・大野松雄の足跡を辿るドキュメンタリー。彼が後世に与えた影響の大きさを感じるとともに、ストイックに音を突き詰める彼の姿勢に、プロの矜持を見せ付けられる。監督は『パンドラの匣』の冨永昌敬。
  1. 2011/06/16(木) 15:55:23 |
  2. LOVE Cinemas 調布

『アトムの足音が聞こえる』をユーロスペース2で観て、へえそう的な反応ふじき☆☆☆

五つ星評価で【☆☆☆アトムを冠にセットした時点で商品としていいパッケージになった】 アトムのピッコピッコピッコという足音は この映画を代表する素晴らしい効果音である。 ...
  1. 2011/06/17(金) 23:54:02 |
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