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『127時間』はトレンディな孤独だよ。

127

 えー。スーパーやる気でませんでした。
 ちゃんとやりますね。今回はダニー・ボイル監督の最新作、アカデミー賞候補にもなりました『127時間』の感想。見たのもうずいぶん前です…すいません。
 観に行った映画館はTOHOシネマズ府中。最近、夜にここで自転車漕いで行ってレイトショー割引で観るのが好きです。TOHOシネマズは渋谷に続き、新宿にも進出するそうですね。すげー勢い。例の値下げやらなんやら日本の映画館を征服するんじゃないだろうか。
 客層は一人客のおじさんがちょこちょこ、学生風の若者が数人。


概要:2010年のアメリカ映画。監督・脚本は『トレインスポッティング』や『28日後…』『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル。音楽はA・R・ラフマーン。原作はアーロン・ラルストン。
 ある日、27歳の青年アーロン(ジェームズ・フランコ)は一人でロッククライミングを楽しむため、庭のように慣れ親しんだブルー・ジョン・キャニオンへと向かった。美しい景観の中で様々な遊びに興じて大自然を満喫するアーロン。ところが、ふとしたアクシデントから、大きな落石に右腕を挟まれ、谷底で身動きがとれなくなってしまう。そこは誰も寄りつかない荒野の真ん中。おまけに彼は行き先を誰にも告げずに出てきてしまった。絶望的な状況と自覚しながらも冷静さを失わず、ここから抜け出す方法を懸命に模索するアーロン。しかし無情にも時間ばかりが過ぎていき、彼の強靱な体力と精神力もいよいよ限界を迎えようとしていた。
("allcinema online"より抜粋)


 僕の尊敬する市川崑監督はかつて「他人はどんなに近くにいる人でもやっぱり他人、完全に分かり合えるなんてことはなく、人は本来的にみな孤独な生き物である。でもだからこそ自分の孤独を見つめ、他者の孤独を認め、精一杯認めあっていくべきだ」なんてことを言っていたが、それが出来たとき、孤独はその人の個性となる。それは高度なコミュニケーション論だ。

 『127時間』の主人公アーロンは自分が孤独であるなんて微塵も思っちゃいない。「一人サイコー!」なんて言ってるけど孤独を感じてはいない。本作は市川崑が言うように、そんな現代人が、やがて"孤独"が"個性"となり他者とのコミュニケーションとはどのようなものかを知っていく物語だったと思う。


(1)現代は「孤独」をひた隠しにしている。
 例えば照明はそこら中を明るく照らし自己を見つめるチャンスの暗闇を与えないし、パソコンをつけてインターネットに接続すれば世界中と繋がることも出来る。常時持ち歩くことがもはや義務化されてもいる携帯電話でいつも誰かと繋がっている安心感も得られている。
 だから我々は「自分は孤独ではない」と錯覚する。
 『ルイーサ』の主人公はルーチンワークを何十年も繰り返し、猫を溺愛することで孤独から目を逸らしていたし、『乱暴と待機』の主人公たちは憎み合うという関係を維持することで孤独を拒否していた。

 『127時間』のアーロンはもうちょっと致命的だ。孤独であるなんてまったく思ってはいない。
 なぜなら彼は自分の表層的な部分しか見ず、奥底など見つめていないからだ。彼にとって「自分」とは「他者にどう見られているか、どう見て欲しいか」でしかなく、そのため見た目を何よりも気にする。
 趣味のアウトドア(これもおそらく"かっこよく思われる趣味")に行くときは、4WDで出発し、マウンテンバイクに跨がり、オシャレなスポーツウェアに身を包み、i-Podとハイテクウォッチとカメラとビデオカメラとその他もろもろのアウトドアグッズを持ち歩き、なんでも自分一人で解決してきた"クールでクレバーでクレイジーなオレ"を演出している。
 だからモテるし友達も多いのだが、結局見透かされて軽薄なやつ、薄っぺらいやつ、心無いやつと思われがちである。
 それでもアーロンは孤独を感じない。それは孤独を見えなくさせる現代の波に乗って生きているからだ。


(2)孤独を感じないアーロンは他者をどう考えているか。
 彼は常にビデオカメラを持ち歩き、自分撮りで、勝手に作り上げた「不特定多数の何者か」という調子のいい「他者」と話し合っている。多分ネットにアップするか何かするのだろう。我々が掲示板やTwitterなどで書き込みするときに意識する「不特定多数の何者か」――「2ちゃんねる」的に言えば「名無しさん」と同様の存在だ。
 彼の脳内にいる「他者」は基本的にそういった「名無しさん」である(『ソーシャル・ネットワーク』でも描かれた数値化された「たくさんの友達」とも似ている)。

 本作の冒頭に大観衆でごったがえすサッカースタジアムや、満員電車から大量に人間が出てくる駅のホームのショットが撮されるが、それこそアーロンの感じている"他者"の絵である。一人一人の人間ではなく、たくさんの人の一つの塊。
 だから彼は冒頭にすれ違った自転車の集団の塊の中の一人と目があった時に違和感を感じたのだ。あの塊はみな同じ方向を見ているべきで一人だけ違う方向を見るのはおかしいのだ。

 なぜそのようにしか他者が見えないのかと言うと、やはり彼が自身の孤独を見ていないからだ。自身の孤独を感じずして他者の孤独など解るはずなく、他者に興味も抱くことは困難だ。それ故に他者は常に「不特定多数の何者かの塊」であり、「他者といる」という行為は携帯電話やインターネットと同様の自身の孤独を見えなくするためのツールと成り下がってしまっているのだ。


(3)ダニー・ボイルという監督について考えてたい。90年代に青春を生きた映画ファンは『トレインスポッティング』の衝撃が一番印象的だろうか。
 『シャロウ・グレイブ』『普通じゃない』『ザ・ビーチ』『サンシャイン2057』『28日後…』『スラムドッグ$ミリオネア』もそうだったが、ポップカルチャーやサブカルチャーに満ち溢れた現代や、ゴミ溜めのようなスラム街や都市部からは見捨てられたあきれ果てるほどのド田舎といった原始時代や神話時代が遠い昔の無関係な出来事になってしまった現代のカルチャーの中に、それでもひっそりと存在しつづける人間の本来的な野獣性や神性を描き続けてきた。

 『127時間』のアーロンは谷底にハマり、右腕を岩に挟まれるというどん底のなかで、人生のうちのたった127時間初めて自身の孤独を見つめるチャンスを得る。

 それでも最初はビデオカメラや写真を使ってなんとか孤独をごまかす。まるでテレビのバラエティー番組のような一人語りを自分撮りして、"クールでクレバーでクレイジーなオレ"を演出し、演出もそれにあわせて今時のポピュラーミュージックとクラブのVJのごときモンタージュ手法で「カッコ良く」彼の孤独との闘争を撮す。そしてそうする度に孤独をごまかす度に自分が孤独であること、その行為の軽薄さに気づく。『ソーシャル・ネットワーク』の主人公がネットを通して孤独を見つめたように、彼もサブカルチャーを通じて孤独に気がついたのだ。

 それはとてつもない――毎朝頭上を飛ぶカラスが恋しくなるほどの孤独であった。何故自分は自転車集団の塊のうちの一人と目があって違和感を覚えたのか、どうして恋人にフラれたのか、どうして母親の留守電に返事を返さなかったのか、孤独な彼は自問と後悔を繰り返し、両親やかつての恋人が自分の孤独を知っていて、かつそれを認めてくれたことに気づく。

 彼が右腕切断という恐ろしい行為に踏み切れたのも「他者が恋しいから」であった。もし他者がいれば、もし他者が自分の孤独を認めてくれたのならば、右腕の骨を折り肉を切り神経を引きちぎる行為も恐くない。そう思えたから彼は右腕を切断できたのではないだろうか。
 そしてついに外に出たとき彼は携帯電話もビデオカメラも手放していた。恥も外聞もなく(なにせ右腕もないのだ)必死に自分の孤独を訴えた。それはカッコ悪いし惨めな姿だが、それまでのまるで安っぽいアニメキャラのようなハリボテの"クールでクレバーでクレイジー"なアーロンよりずっとエネルギッシュな人間くさい姿であり、そんな彼を見つけた見知らぬ一家は彼の孤独を受け止めてくれた。そうして、ようやく人間らしいコミュニケーションが成立したのだ。
 だからこの試練の後、彼は他者をようやく愛することができ、結婚をし、行き先を告げて旅に出るようになったのだ。


(4)まとめ。
 『127時間』でダニー・ボイルは現代カルチャーで目隠しされている人間の本来的な孤独を描いている。その自己の内にある孤独を認めることは、他者の孤独を認めることであり、その時、その孤独は他者を尊重する「個」となる。それこそが人間らしい人間を尊重したコミュニケーションであると本作を見て感じた。


 ダニー・ボイル作品のなかでもなかなかの傑作だと思います。生命力に溢れるエネルギッシュな映画なので、夏バテなどに是非。

 松井珠理奈レベル。

 次回は話題作ですがもう話題は去りましたね『SUPER 8/スーパーエイト』の感想。
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